第 弐 話
壱 ‐イチ‐
視界に入ってきた
ゆっくりと
放課後、出会った
……透夜。
柾矢が声に出した、青年の名前。
彼を見た時に
全てを包み隠す
柾矢と面識のある、人とは違う存在。
◆ ◆ ◆
あの――透夜との
その色合いに、
「……」
押し黙ったままハンドルを
ふと、まっすぐ自分を見る涼しげな
高校生だった柾矢の
一番古い記憶。
その時からずっと
……あの人は、何?
聞きたいけど、
信号が赤になり、車がゆっくりと止まる。
「何?」
柾矢が玲花の方を見て、短く問いかけた。
「えっ?!」
「さっきから何が訊きたい?」
ためらう玲花に、柾矢がもう一度
「仕事は平気なの?」
「ああ。今日は、玲花の初登校だからな。いつも人一倍仕事をこなしているんだ。たまにはいいだろ」
口の
「……柾矢は、わたしに甘いよね」
「そうか?」
「うん。さっきは、厳しかった」
信号が変わり、前を向いて車を加速させる柾矢に、玲花は告げる。
隆弥に対する柾矢の突き
「あれは、一般常識」
◆ ◆ ◆
着替えてそのままベッドに横になると、
どうやら、そのまま眠ってしまったらしい。
クローゼットの前まで進み、九条学園の制服に替えるために、ワンピースを脱ぐ。着替え終えて部屋を出て庭に面した廊下を歩く玲花は、庭の木々の
「
言葉に出してから、玲花は歩き出す。
居間に入ると、
「おはよう」
少し低めの女性の声が届く。
「おはよう、
腰まで届く、
きりっとした
「昨日の朝、髪をそのままで学校に行ったでしょう。ここに座って」
玲花は
……どうして知っているんだろう。
「昨日の朝、風がはしゃぎすぎて、うるさかったのよ」
「風がはしゃぐ……」
「どうして、あんなに嬉しそうなんだろう」
ぽつりと
この少女は感覚で認識しているのだ。
十代後半になっても、変わらず純粋なままだ。
その純真さを、素直な心を、――好む。
近いうちに、玲花自身が理解するだろうから、藤は
「玲花の長くて綺麗な髪が好きなんじゃない」
明言しない代わりに伝えると、「そっか」と短く納得した。
藤はされるがままの少女の無防備な後頭部に視線を
「はい、できたわよ」
「ありがとう、藤」
「どういたしまして。さて、朝食にしましょう」
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