肆 ‐シ‐

 隆弥は足早に管理棟の四階へ上がり、学生会室のプレートをかかげた部屋の扉を押し開ける。

「朝から元気だね」

 足音を響かせる隆弥に、重厚な机の向こう側から声が投げられた。

 穏やかな口調と、柔和な表情。ふわっとした髪にやや丸みを帯びた顔が、優男やさおとこの印象を与える。

「色んなモンに邪魔された」

 会長席に座る従兄の雅紘をにらみ、隆弥は吐き捨てる。

「邪魔をされたの? 何に? 何をしようとしたの?」

 隆弥の言葉を拾ったのは、学生会会長の机の正面にある応接セットのソファーに腰かけている少女。

「風に。風が守護しゅごしているっぽいヤツに近づこうとして――」

 苦々にがにがしい語調の隆弥に、「風?!」と異口同音の横槍よこやりが入った。

 隆弥が視線を巡らすと、女子生徒――九条くじょうかえでは口を閉ざしたまま動かず、雅紘は椅子から立ち上がると窓を全開にして外を見据みすえていた。

「確かに、今日の風は今までと違って、ざわついているね。何ていうか……はしゃいでいる感じかな」

朝凪あさなぎの者が来ているのかしら」

 雅紘の台詞せりふに、楓は顔を上げて窓の外を見やる。

 それなら、今までも何度もあった。その時は、これほど空気を変えていない。

 今日の風は、嬉しいという気配ばかりがきわつ。


 その理由は……?


「そいつ、うちの女子生徒だった。見たことのない顔」

 伝えていない内容を隆弥が口にした瞬間、一斉に二対の目が隆弥に向く。

「うちの生徒? しかし、朝凪姓はいないよ」

「じゃあ、何者だよあの女」

 驚きを帯びた雅紘の声に、隆弥がおんげにぼそりと答える。

「その生徒については調べる必要があるみたいね。また会えたら必ず接触して、ここに連れてきて下さいね」

 考え込む様相から満面の笑みに切り替えて、楓は二人に向かって表明ひょうめいした。

「わかりました」と、雅紘と隆弥が同じタイミングで、口調をあらためてうなずく。

「それで、隆弥。その子は、どんな感じの子なの?」

 楓から隆弥に視線を移動させて、雅紘がたずねる。

「普通なカンジ」

「何、それ。もっと具体的に説明できないの? 背が高いとか、ポッチャリしてたとか。髪が長いとか、タレ目とか……色々あるでしょ」

 即答した隆弥に、楓は柳眉りゅうびさかてて、信じられないという感情を込めて言い立てる。

「うるさいなぁ。印象が薄いんだよ。……茶髪が意外なイメージしか残ってない」

 責められている雰囲気に納得できなくて、隆弥は言い放つ。

「仕方ないだろ。摑もうとするとスルっと逃げられる……そんな感じ」

 その言葉を聞いて、楓と雅紘は視線をまじわす。

 印象に残らない、と隆弥は言う。

 そこに何かの意図いとが働いていることを二人は感じ取った。

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