参 ‐サン‐
強烈な視線を感じて、玲花は振り向いた。
数メートル先の坂の上。
がつん、と視線がぶつかる。
浅葱色のネクタイが
彼の力強い
何をも
ドクリ。
玲花の心臓が一度強く響き、一気に全身を血が
――まだ……
そう言われた気がした直後、
ざわざわざわざわ――
急に叩き起った風が、玲花の視界を邪魔だてした。
あまりの激しさに、玲花は目を閉じる。まとめていない髪が風にあおられるのを両手で押さえながら少し待つと、
突風で運ばれてきた小さく白い花びらが、舞い落ちる。
ひらりひらり、と誘うように。
玲花はそっと右手を伸ばすと
戯れに喜び、空気がキラキラと輝く。
「キレイね」
背後から声をかけられ、玲花は驚いて振り返る。
とても
艶やかな黒髪を肩にかかる長さで切り
誰だろう……? 綺麗な子。
数日前にこちらに移り住んだ玲花に親しく話しかける同年代はいない。
「初めてお会いする顔ね。わたし、
学園を指差しながら人好きする笑みを見せて、夏月が先に名乗った。
「今日、転入したばかりなんです。一年の、藤杜玲花です」
「フジモリ、レイカさんね。何組?」
玲花の名前を確認するように繰り返した夏月は、すぐさま次の質問をする。
「えっと……一年Z組」
玲花は、前日の学園の説明を受けた時のことを思い返して答える。
「あらっ、同じクラス。これから、よろしくね」
「本当?! こちらこそ、お願いします」
にこやかな夏月の表情に、玲花の心が少し軽くなる。
校内へと
ピリッと、わずかに肌を刺す感触に、玲花は眉をしかめる。
「どうしたの?」
平然と通り抜けた夏月が不思議そうに玲花を見つめていた。
「ううん。何でもない」
チクチクと肌を刺激する感覚が残ったまま、玲花は首を横に振る。ふわり、と茶色い長い髪が頬にかかる。
焦げ茶色のバッグからヘアクリップを取り出して、玲花は自分の腰まである髪を手早くまとめ上げた。
「キレイな髪なのに、まとめちゃうの?
「うん、そう。赤すぎるから」
本気で残念がる夏月の声に、玲花は小さく笑う。
「そうね。うちの学園、髪を染めるのは禁止なんだよね。校風は自由なのに、そういう所は厳しいんだよねぇ」
正門から
「あれが管理棟。その隣が教室棟で、昇降口は、あそこ。藤杜さんは、これから職員室に行くの?」
建物を指し示しながら校内を案内していた夏月が、玲花に問いかける。
「うん」
「じゃあ、
「楠原さん、ありがとう」
職員室の入る管理棟のガラスドアの前で立ち止まった夏月に、玲花はお礼を伝えてから建物の中に入った。
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