第12話 申請

「よし、では学院長にこのことを言ってくるか」


 そして、話はアンナがジレットとデンゾウのもとを訪れ、大会への参加を決意した、大会前日に戻ってくる。


 集まった3人はさっそく魔術競技大会への出場を学院長に打診することを決めた。


 ジレットがそう言うと、後の2人もそれに同意する。


「しかし……快諾してくれるでしょうか?」


 デンゾウが不安そうにそう言う。ジレットは自信満々の様子でそれに答える。


「してもらわなければ困る。というか、あちらとしても歓迎されるはずだぞ? 普通は出ないからな、男子は」


 ジレットの言う通り、入学する少数の男子学生は、魔術競技大会には出ない。出た所で結果が見えているからである。


「まぁ、とにかく学院長の所に行くぞ」


 そういって3人は学院長の部屋へと向かった。


 ジレットは相変わらずの不敵な笑みを浮かべ、デンゾウは少し不安そうに、さらにアンナは自分がやっていることが本当に正しいのか、未だに判断できていなかった。


 アルピレーナ学院の学院長室は普段ほとんど生徒はやってこない場所である。もとより学院長に用事がないということもあるが、魔術師として最高位のレベルの学院長に近づきがたいというのが大半の生徒の本音であった。


 しかし、ジレットやデンゾウは男子であるから、むしろ、そういう感覚はなかった。緊張しているのはアンナ1人だった。


「学院長、失礼する」


 扉をノックすると同時に、ジレットは中に入った。


「あ、あの……もう入るんですか?」


 アンナは慌ててジレットにそういう。しかし、既には部屋の中に入ってしまっていた。


「おい、学院長」


 ぶっきらぼうにそう言うジレット。


「ん? ああ、なんだ。男子諸君か」


 アルピレーナ学院学院長……大人とは思えない小柄な容姿に、白髪の女性は、机の上で眠そうな目をこすりながら3人を見ていた。


「話がある。魔術競技大会の話だ」


「え……ああ、あれ。え……君達、関係あるの?」


 学院長は信じられないという顔でジレットとデンゾウ、そして、アンナを見る。


「ああ。俺達は出場する。許可をもらいたい」


「え……マジで? いや、その……君達のことは知っているけど……やめた方がいいんじゃない?」


 学院長は苦笑いしながらジレットにそういう。しかし、ジレットはニンマリと笑みを浮かべて学院長を見た。


「別にいいだろう。魔術競技大会で今まで死者が出たことはない。仮に死んだとしてもこんなロクでもない人生に未練はない」


「あ、いや、それはそうなんだけど……」


 学院長は気まずそうに視線を逸らした。煮え切らない態度にジレットは段々イラツイてきていた。


「おい。まさか、俺達に出場されると困るっていうのか?」


「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど……男子諸君が使う魔術は……特殊だろう? そういう魔術を生徒たちに見せるのはショックが大きいんじゃないかなぁ、って……」


「あ? なんだそりゃ。それを言うなら、コイツだって黒魔術を使うぞ」


 そういってジレットはアンナを指さす。学院長はアンナを見ると目を丸くした。


「アディントン家の……え、君も出るつもりなの?」


「あ……はい」


 学院長はアンナの存在を認識し、ますます嫌そうな顔をする。


「えっと……いや、いいんだけどさぁ……その……私は責任取れないよ? 君たちがどうなっても……」


「フンッ。もとよりアンタに頼ろうなんて思ってない。許可だけ貰えればいいんだよ」


 ジレットの強硬な態度に、けだるげな学院長は降参したようだった。


「わかったよ……その……対戦相手のこと、くれぐれも気を付けてね」


 学院長が不安そうな顔でそう言うのも聞かずに、ジレットはそのまま踵を返した。デンゾウも慌ててそれに続く。アンナもそれに続こうとした。


「あ。アディントンさん。ちょっと」


 と、アンナだけは呼び止められた。


「はい。なんでしょうか?」


「ちょっと、2人で話さない。女同士でさ」


 苦笑いしながら、学院長はそう言う。アンナは困り顔でジレットとデンゾウを見る。


「好きにしろ。俺達は部屋に戻る」


 そういってジレットとデンゾウは学院長室を出て行ってしまった。


「えっと……学院長先生。なんでしょうか?」


 すると、学院長は大きくため息をついた。


「……悪いんだけど、君、やっぱり出場、取りやめない?」

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