第13話 危険

「え……どういうことですか?」


 アンナは、学院長が口にした言葉に驚いた。


 学院長は気まずそうな顔でアンナを見ている。


「……いやさぁ。ね? わかるでしょ?」


「え、ええ……でも、なぜですか? やはり男子の出場は認められない、ということですか?」


 アンナの予想はそれだった。実際、他の魔術学校では、男子の出場を認めない事例もあったと聞いている。


 しかし、学院長は首を横に振る。


「……違うよ。彼等が……危険だからだよ」


 学院長は言いにくそうな顔でそう言った。


 危険……確かに、黒魔術と白魔術では天と地程の力の違いがある。戦えば大半の場合、見ているのが辛い程に圧倒的な戦いとなってしまう。


 時には黒魔術側に甚大な被害が出る場合もある……アンナにとっては、学院長の言うことも、最もであった。


「しかし……妙ですね。男子のことをそんな風に心配するなんて……」


「え? ああ、違うよ。ウチの女生徒が危険だって言っているの」


「……は?」


 学院長は眉間に皺を寄せてアンナを見る。アンナも学院長のことをジッと見ていた。


「……えっと、どういうことですか?」


 思わずアンナは学院長に訊ねてしまった。学院長は頬杖をつきながらまたしてもため息をつく。


「……たしかに、黒魔術は一般的には実用的ではないし、白魔術には対抗できない……本学院でもそう教えているよね?」


「え、ええ……」


「しかし、物事には例外が存在する……あの2人……特に、ベルレアン君は、その例外ってヤツ……と言えるのかな?」


 苦笑いしながら学院長はそう言う。アンナは学院長の言っていることがいまいちわからずキョトンとしてしまった。


「……つまり、ジレット・ベルレアンは……強いのですか?」


「……強い、か。白魔術では一般的に、美しい魔術こそ、強大なものとされるよね? 全てを焦がす炎、飲み込む水……そんな魔術こそが、もっとも強いものだ、と」


 学院長はそう言ってアンナを見る。その鋭い瞳に、思わずアンナもたじろいでしまった。


「はい……私も、それは知っています」


「だが、ベルレアン君の魔術はそうじゃない。それこそ……この世界の構造が生み出してしまった忌むべき魔術、とでも言ったほうがいいかな?」


「……学院長、失礼ですが……学院長はベルレアンの魔術を知っているのですか?」


 アンナがそう訊ねても学院長は意味深に微笑むだけだった。アンナとしても、おそらくその実態は教えてもらえないのだということは理解した。


「……とまぁ、この私をもってして、そこまで言わせるというわけ。だからさ。アディントン君、悪いんだけど――」


「……すいません、学院長。それでも、私は……」


 アンナは抑えきれない感情を溢れさせて、学院長にそう言った。


 学院長としては、いつも静かなアンナがそこまで感情を溢れさせることに、少し驚いてしまった。


「……そう。まぁ、死者は出ないと思うし、いいんだけどさ……さすがに男子に女生徒が負けると、学院長としての私の立場がね……」


「……すいません」


「あはは。いい、って。それに、男子2人や、アディントン君の戦いぶりも、見てみたいしね」


 そう言われてアンナは、魔剣の柄をギュッと握る。既に学院長にここまで言ってしまった……もう後戻りはできないのだ。


「分かった。申請は許可するよ。あの2人にも言っておいて」


「ありがとうございます……では、失礼します」


「ああ、健闘を祈るよ。黒魔術師さん達……あ! そうだ、ちょっと待って!」


 アンナが学院長室を出ていこうとした時、学院長はアンナを呼び止めた。


「はい? なんでしょうか?」


「ふふふ……申請を許可する代わりってわけじゃないんだけど……アディントン君には、してもらいたいことがあるんだよね~」


 その言葉を聞いて、アンナの脳裏には、嫌な予感がよぎったのだった。

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