第5話 魔法世界とデンゾウ・ハットリ

「ふむ……皆やはり浮き足立っているな」


「そうね。ふふ。やっぱり学園生活最後の一大イベントですもの。仕方ないわ」


「ほぉ。さすがの生徒会長殿もやはり高ぶっているようだな」


 ここでは黒髪の美少女と、その隣に並んだ茶色がかった長い髪の美少女が話していた。


「いやだわ。高ぶっているだなんて……エルナだってそうでしょう?」


「私は……ふふっ。まぁな、しかし、すでに約束された勝利は生徒会長クラリス・ベルクールの手にあるのではないか?」


「やだわ、エルナ……勝負はやってみないと、わからないわよ?」


 そう言いながらも、クラリスはまんざらでもないようで、実際、自分の勝利を確信しているようだった。


「ところで……アルピレーナ学院の馬鹿男子コンビは、明日からの試合で何か作戦はあるのか?」


 黒髪の少女が訊いたのは隣に座っている少年だった。


 少年はひたすらに冷たい雰囲気を発しており、刃物のような目付きと、白過ぎる肌が、印象に残った。


「……エルナ殿。知っていると思いますが……魔術競技会は三人一組……ジレット殿と拙者だけでは、出場することはできませぬ」


 落ち着き払った調子で少年は答える。


「あー。そうだったな。ま、仮に出られたとしても、この世界の魔術競技大会では、どの学校も大体男子生徒は一回戦敗退だ。何か作戦でもない限り、君たちも同じように惨めに敗北することになるぞ?」


「ふっ……そうですね。私にはありませんが、仮に出場できたとすれば、ジレット殿にはなにかあるかもしれませぬな」


 少年があくまで冷静なのを見て、エルナは少しむっとした表情をする。


「ふんっ……どうせどんなちょこざいな策を労そうと、所詮は無駄な足掻きだ。君たちは淘汰される運命にあるのだよ」


 さすがに少年はその言葉には来るものがあったようだ。キッとエルナのほうに向き直る。


「な、なんだ。今ここで決闘を始めようと言うのか?」


「いえいえ……そんな。ただ、弱い犬ほどよく吼えるとはよく言った物だな、と思いまして」


「な、なんだと!?」


「よしなさい、エルナ」


 と、茶髪の少女に宥められて立ち上がろうとしたエルナは腰を落ち着ける。


「し、しかし、クラリス……!」


「さすがに言いすぎだわ。デンゾウだって怒るわよ」


 そういわれると何もいえないのか、エルナは黙って俯いてしまった。


「ごめんなさいね、デンゾウ」


「いえ。会長殿に謝られると、逆にこちらが申し訳なくなってしまいます」


「ふふっ。でも、明日からの魔術競技大会私も楽しみにしているのよ……もし、奇跡が起きればアナタとジレットにも、是非参加してほしいものだわ」


 ニッコリと笑顔でそう微笑むクラリスであったが、その笑みには明らかにデンゾウを軽視する色があった。


 デンゾウはそれを見逃さなかった。


 相変らずの無表情で少しだけ頷いただけ……それ以降、デンゾウがエルナとクラリスに顔をむけることは授業中なかったのであった。

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