第4話 魔法世界とアンナ・アディントン

「では、アンナ・アディントン。この問題を解いてみなさい」


「はい」


 初老の教師に名指しされ、長い黒髪の少女……アンナ・アディントンが、黒板の前に立った。


 そして、アンナは黒板に流れるように文字を書いていく。初老の教師も目を丸くしてそれを見ていた。


「はい。正解です。さすがですね」


 教師に褒められ、女子生徒は小さく一礼してから席に戻る。


「ふわぁ……退屈ですわ。知識など、魔術の世界では役に立たないと言いますのに」


 大きなあくびをして、アンナの隣の女子生徒がそういう。


「……お嬢様。知識も、魔術に必要なことかと」


アンナは隣の女子生徒に対し、至極真剣な顔でそう言った。


すると、アンナの隣にいた女生徒は、不機嫌そうにアンナを睨みつける。


「……ふっ。そうですわね。アナタのようにまともな魔術を使えない存在は、知識くらいまともに覚えなければ何もなくなってしまいますものね」


 金髪の少女は、さもアンナを馬鹿にした様子でそう言った。


「アリシア様。ワタクシはそういう意味で言ったのでは……」


 アンナがそう言おうとするのを遮って金髪の少女、アリシアは先を続ける。


「いいですこと? どうせ、この教室の生徒で、今日の授業を聞いている者など1人もおりませんわ。なぜなら……明日からの魔術競技大会で頭が一杯でしょうから」


「……アリシア様も、そうなのですか?」


「ワタクシは……そうですわね。アルピレーナ学院生徒会副会長としては、むしろ、魔術競技大会がとどこおりなく進むことで頭が一杯ですわね」


 金髪の少女は憮然とした態度でアンナにそう言ったのだった。


「さすがです……」


「そうですわ。まったく……いいですわよね。貴方のような女子でありながら、魔術をまともに使えない存在は。こういう責任ある立場を任されることもないですから」


 アリシアのその言葉に、アンナは拳をギュッと強く握った。


「……申し訳ございません。アリシア様」


「はぁ……そうですわ。いっそのこと貴方、男子生徒と組んでみたらどうですの?」


「男子と……ですか」


 アリシアの言葉をアンナは自分で言い聞かせるように復唱する。


「ええ。汚らわしい魔術を使うアナタは一人部屋……この学園の男子二人組と組めば、ちょうど良いと思いますわよ?」


 アリシアの馬鹿にしきった態度で、アンナにそう言う。


 アンナはさらに強く拳を強く握りしめながら、なんとか表情を変えずにアリシアを見る。


「……検討、致します」


 相変らず感情を押し殺したままで、曖昧に微笑むことしか、アンナにはできなかったのであった。

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