少し驚いただけ

大徳高校 家庭科室


「調理実習とはいえ、異能なしで作るとかダル…」

「何も作ってないアンタに言われてもねぇ。パスタ茹でたよ。ソースないけど」

「こっちで作りましたよー。ミートソースでよろし?」

「ついでクッキーも完成」

「サラダは?」

「食堂」

「飲み物は?」

「自販」

「いってら」


そろそろ正午に差し掛かる時間。

選択授業の最中。

同じ授業と取った友人達が準備を着々と進めていく。

咲耶もそれに倣って、棚から皿を取り出していく。


「お皿はこれでいい?」

「ありがとー。咲耶はどれくらい食べる?」

「少しでいいよ」

「えー?これからお勤めでしょ?たくさん食べなきゃ」


言葉に反して多く盛られていく。


「異犯部とかすごいよねー。超エリートじゃん?」

「イケメンいた?」

「フリーいる?」


手を休めることなく置かれていく取り皿や、料理の数々と尽きぬ問い掛け。


「どうだろ…少ししか話せてないから」

「今度聞いてみて!」

「うん…」


――黒川さんや恩田さん辺りなら、答えてくれそうかな。


「課長さん達はどんな感じ?」


盛り付けをしているクラスメイトの言葉に、朝霧と高月を思い浮かべる。


「みんなと話せてないけど……気さくな人と優しい人、かな」

「イケメン?」


度重なる問いに、二人の容姿を振り返る。

朝霧は飄々としてやや軽薄さがあり、信頼に足る人物かどうか判断しかねるところはあるが、華美で端正な顔立ちをしていた。

一方で高月は、目立たないように見えて、朝霧に劣らない容姿をしている。

加えて穏和で物腰も柔らかく、話しやすさもあった。

まだ会って間もないが、少なくとも咲耶はそう感じていた。


「うーん。高月さんはモテそう、かな?頼りになる先輩?みたいな」

「大人の余裕ってヤツ?いいなー」

「うちのクラスの男子共じゃお話にならないね」

「そう言う倫はあれよね。ほらこの前…」

「え?あれは…違うよ」

「ほんとかなー」

「あやしいなー」

「どっちでもいいけど」

「倫はともかく、咲耶は気を付けてね。超心配!」

「イケメンでも、危ないヤツには近付いちゃダメだからね」

「ありがとう…」

「へいへいへーい!ドリンク買ってきやしたぜい」


買い出しの面々も戻ってきて、それぞれ席に座る。


「じゃあ食べますか!」

「がっしょーじゅんび」


手を合わせようとした瞬間、制服のポケットから振動が響く。


「ごめんね」


画面と開くと九条からのLIMEが届いており、内容は校門前に着いたとのことだった。

――九条くん、早いな。


「どしたの?」

「お迎え来たみたい」


目の前に置かれている料理に、手を付けないのは少しばかり罪悪感を感じさせるが、待たせるわけにもいかないと、咲耶は席を立つ。


「行かなきゃ」

「え!まだ食べてないじゃん!お昼抜きとか駄目っしょ!」

「待っててもらえば?」

「でも…」

「ここに連れてくれば?」

「あ、それいいかも」

「いいじゃん!うちらもどんな人なのか気になるし!」

「イケメン来るー!?」

「え、えっと…」

「ほらほら咲耶!連れてきて!」




――――――――――

――――――――

――――――




「不破さん、ごめんね。お昼の時間、ちゃんと聞いておけば良かった」

「ううん。私も詳しい時間言わなかったから。気にしないで」


昼食を取って学校をあとにした咲耶は、九条とともに業務を遂行していた。


――言われるまま連れてきちゃったけど、九条くんには悪いことしちゃったな。

――それになんか、みんな顔が違ってたような。

――もしかして化粧してた…?


友人達に言われるまま、九条を連れてきたものの。

先程と違う友人達の容貌に違和感を感じたが、何より気になったのは九条だった。


「九条くんこそ、大丈夫だった?色々聞かれてたけど」


食事をしている間、九条は知流をはじめとする友人から質問攻めに合っていた。

戸惑いの表情を浮かべる彼に申し訳なさを感じ、いつもより早めのペースで食事を口に運んではいたが、問い質されるには十分な時間だったようで、終わった頃には疲れたような表情を浮かべていた。


「…大丈夫。少し驚いただけ」

「でも――」

「気にしないで。同年代の人と話すことあまり無かったから、新鮮だったよ」


咲耶の心情を察してか、九条はそう口にする。


「それよりも、周囲を気にしてくれる方が助かるよ」

「あ……ごめんね」


九条の言葉に、業務中であることを思い出す。


「お仕事って見回りと書類整理がほとんどなの?」

「大体はね。大きな案件や緊急だと変わるよ。それと能力によっては、監視に徹底する人もいたりする」

「九条くんの異能って――」


話の流れとはいえ、人によっては触れられたくない事を思わず口にしてしまい、言い淀む。


「僕のは…念動力かな。物を動かしたりとか。よくある異能だよ。学校にもいるでしょ」

「うん」


一方で九条は、気にする素振りもなく答える。

その様子に咲耶は安堵しつつも、時折目に映る彼の首もとにあるものが気になり、言葉を続ける。


「――気になってたんだけど、そのチョーカーみたいなのって、外すには番号が必要なんだよね?」

「うん」

「私と一緒にいて大丈夫なの?」


尋ねれば、九条はまた頷いた。


「問題ないよ。他の課は知らないけど、二課は単独では動くことはないから。事件が発生したら、報告して増援と合流してから対応するのが流れだよ」

「課によって違うの?」

「違うよ。一課は部内随一の武闘派だし、三課はサポート主軸で他課との連携重視、四課は課員の判断に任せる放任主義だから」


各課の特色を聞きながら、各課長の姿を思い浮かべる。

――確かに朝霧さんや新城さんは個性的かも。

――高月さんが一番まとも?

――三課の課長さんは会ったことないけど。


「この辺りは大丈夫そうだね。次のとこ行ってもいい?」

「うん」


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