図星ですね!
異能犯罪対策部 三課
「ほんと可愛いんですよー。まさに立てば芍薬座れば牡丹って」
「どうでもいい」
「つれないなぁ。そーさんってば、女の子に興味無さすぎでしょ」
軽口を叩く後輩に、思わず溜め息が零れそうになる。
「ガキに興味ねーよ。お前が盛りすぎんだよ」
「えー?人並みだと思うんですけどねぇ」
陽気な笑みと口調を崩すことなく、夏樹は書類を手に取る。
「ま、無くても良いですけど。明日はうちの課に来るんですから、愛想笑いくらいはして下さいよ」
「何で俺が…お前が相手するんだろ。なら――」
「明日はなんと!調停部御一行様に、終日同行でございます!」
高らかに告げられた言葉に、音村の眉間にシワが寄る。
「…今、ふざけんなって思ったでしょ?」
「別に…」
「図星ですね!」
「黙れ」
空気を読んでないように見せ掛けて、相手の機微を瞬時に読み取る辺りは、本当にタチが悪い。
異犯部一のムードメーカーにはしばらく頭を抱えそうだと、とうとう音村は溜め息を零してしまった。
「まぁまぁ。咲耶ちゃんは控えめな子だから、きっと音村くんでも大丈夫よ」
「お帰りなさい。薫さん」
聞き慣れた宥めるような口調と優しげな声色に、音村は書類から目を離す。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「相変わらずね。今後も派手にやらかすようなら、うちの課じゃ持て余しちゃうかも」
「なら一課に任せた方がいいですかね?朝霧さん緩いけど、ドンパチ担当だし」
「そうね。それか連携でもいいかも」
所属する三課は、人数が少ないことや自分を含めて所属課員の異能は実戦向きではないものが多いため、取り扱う事案の調査等を念入りに行い自分達で遂行できるか判断をする。
自分達で対応できるものならばそのまま遂行し、逆に手に余るようなら他課へと回すか、あるいは助っ人として応援を要求する等の対策を採る。
ゆえにサポートに徹することが比較的多いが、その利点として他課との連携が取りやすくはある。
「連携なら水沢か夜霧さんですかね?」
「水沢じゃないか」
「あ、そっか。中原さん、夜霧さんのこと嫌ってるんだった」
夏樹は悪びれることなく言うが、音村はそれとなく一課を見やる。
二課を挟んでいるが、決して聞こえない距離ではない。
加えて今日の一課昼勤には話題に出された本人がいる。
とはいえ、夜霧は背を向けたまま業務に勤しんでおり、こちらに反応すらしていない。
――とはいえ、話は聞いているだろうな。
夜霧とは実は同期ではあるが、自分のように始めからこの課に配属されたわけではない。
とある部署から異動してきたのだ。
――半月経たないうちに、成績トップになるどころか、それを維持し続けてる辺り次元が違う。
――さすがは鴉と言ったところか。
「嫌いというか、……相性が悪いのよ」
「ふーん?まぁ相性といえば、俺とそーさんは仲良しなんでバッチリですね!」
「……」
「無視ですかー?ひどーい」
「ふふ。ともあれ一度、中原さんに報告しましょう」
「はーい」
陽気な空気を纏ったまま、夏樹は自分のデスクへ戻り、ようやく仕事に取りかかる。
「音村くん」
自分も業務に戻ろうとした矢先、沖本に声を掛けられる。
「夏樹くんはああ言ったけれど、うちの課では私が彼女の担当だから。音村くんは普段通りに仕事をしてくれれば問題ないわ」
「すいません」
「気にしないで。誰にだって得手不得手はあるものだし」
責めることはないその言葉に、少しばかり罪悪感を覚える。
元々女性と話すことは得意ではない。
だからと言って避けるばかりではいけないことは理解しているつもりだが、一回り近く離れている少女と話すなど苦痛でしかない。
年上である自分が気遣うべきなのだろうが、そんな器用さがあるわけでもない。
「そーさんってば、うちの女の子達にめちゃめちゃモテるのに、見向きもしないなんて!」
「そこが音村くんの長所よ。クールで靡かないところが」
「えー?愛想がないの間違いじゃないですか?」
「おい」
「冗談ですよ?ともあれ咲耶は年下だし、可愛くて大人しいから大丈夫ですよー」
――そういうことじゃねーよ。
――それなら尚更だろ。
「なぁ――」
「そうだ薫さん。さっき一般対策部から差し入れもらったんですけど」
「あら珍しい。どういう風の吹き回し?」
「この前あざみんが、夜霧さんとドンパチした詫びだそうですよ」
「そんなに凄かったの?」
「ヤバかったですよ!課長達じゃあどうにも出来ないって、部長まで出てきちゃったんですから!」
――言うほどでもないか。そうなると決まったわけじゃない。
「…………」
――俺の予想が当たらないことを祈るばかりだ。
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます