俺は信じている
それから数時間後――。
夜霧との巡回が終わり、それからは黒川と共に書類整理の傍ら、仕分けの方法や用品の保管場所などを教えてもらいながら業務に従事していた。
「不破さん」
それからまた時が経ち。
就業時間も残り僅かとなり、今日の出来事を思い返しながら宛がわれたデスクで日報を書き進めていると、高月に声を掛けられる。
「今日は夜霧くんと巡回だったね。大丈夫だったかい?」
「はい。色々と教えて頂きました」
「それなら良かった。彼はこの部で一番優秀な課員だからね。何か困ったことがあったら、頼りにするといいよ」
「はい……あ」
夜霧との会話を思い出し、咲耶は声を漏らす。
「一つ聞きたいことが……その、チームのことなんですけど」
「チーム?」
「えっと、夜霧さんがお仕事で関わる時もあるから、覚えておいといた方がいいってさっき。高月さんが詳しいからって」
「ああ、そのチームのことか。この部署の中では、確かに詳しい方ではあるけれど……」
一旦考える素振りして、高月は咲耶の隣に座る。
その表情はどことなく険しくも見える。
「……今では、世間の認知や許容が浸透しつつある異能者だが、以前はそうではなかった。むしろ忌避の対象だった」
忌避の対象――。
一般人に絡まれていた後輩のことを思い浮かべながら、咲耶は耳を傾ける。
「今よりも異能者の立場が弱かった時世。そんな中でも人と共生している者はいたが、全員がそうではなかった。自分の身は、自分で守らなければならない。そう考えた一部の異能者によって作られたのがチームだ。その当時は、虐げられていた異能者を守る自警団みたいなものだったと聞いている」
「自警団……」
「そうすることで、虐げられるだけの存在ではないという、牽制の意味合いも果たしていたんだろうね。今は攻撃性の高い異能を持つ、極端に言えば一般社会と馴染みづらい異能者の保護という名目のもと、各チームに所属させて、彼らを統率する協会から出される指令をこなしている。一部のチームを除いて、半ば組織化しているのが現状かな」
――つまりチームは、異能者を保護するためのもの?あるいは保険?
――調停局と同じように、異能者が平穏に暮らせるように形作られたものなのは確かだと思うけど。
――でも一部のチームは違う?
「チームにも色々と背景があるんだ。現在あるチームの多くが協会設立後に誕生したチームだけど、オルディネやケイオスなど最初期からあるチームは、協会の意向とは別の思惑で動いている印象がある」
口にはしていないが、生じていた疑問に答える高月。
夜霧の時のように、また顔に出ていたのだろうか。
しかし顔を上げて目に映った高月は、ここではないどこかを見つめているようだった。
まるで何か思うことがあるようで。
そう考えるも束の間。
こちらの視線に気付いたのか、彼は咲耶に笑みを浮かべた。
「少し話が逸れたね。チームのツールはだいたいそんなところ。俺達が取り扱う案件によっては、異犯だけでは手に負えないものもある。そういった時に協力してもらうんだ。チームにも優秀な異能者がいるからね。とは言え、協力してくれることは稀だけど」
「なんだか大変ですね……」
「まぁ…色々あるからね。それでも以前に比べれば、マシにはなってるよ」
「高月さーん!…あ、咲耶もいる。もしかして取り込み中ですか?」
咲耶を一瞥しながら葉山が問い掛けると、高月は首を軽く振る。
「大丈夫だよ。どうした?」
「和久さんが呼んでます」
「すぐ行くって伝えて」
「了解でーす」
葉山はそう言ってすぐに去り、高月は席を立つ。
「まだ課題は山積みだけど……それでも少しずつ良い方向に進んでいると、俺は信じている。欲を言えば、君みたいな子が増えてくれれば嬉しい」
「高月さん…」
「ノートは俺のデスクに置いといて。お疲れ様」
――――――――――――
――――――――
――――……
今日のまとめをに書き終え、高月に言われた通り、ノートをデスクに置く。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。明日も宜しくお願いします」
「咲耶お疲れー。また明日な」
「はい。お先に失礼します」
残っていた黒川や恩田に挨拶をし、対策部を後にする。
「なんとか終わった……」
廊下をしばらく歩いて、不意に呟く。
内に渦巻いているのは安堵か不安か。
明確には言いがたいが、とりあえず明日が来ることが億劫にならないことには安心した。
――すごい疲れた。
――お仕事って大変……大人って凄いな。
――今日は早く寝よう。
寮へ早く帰ろうと思い、顔をあげる。
「あ」
見覚えのある月白色の癖のある髪を見て、思わず声を漏らす。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様…」
そんな咲耶に気付いたのか、九条は挨拶をしながら歩み寄る。
「初日はどうだった?夜霧さんと見回りって聞いたけど」
「うん。みんな優しくて、色々と教えてくれたよ」
「良かった」
「九条くんはまだお仕事?」
「もう帰るところ。働いてはいるけど、まだ未成年だからね。あんまり遅くまでいると煩くて」
――そっか。九条くん、私より年下って言ってたよね。
――もう働いてるんだから凄いな。
「ねぇ、家どこ?送ってく」
「え」
「……嫌?」
「ち、違うけど…寮住みだし近くだから」
突然の発言に戸惑いながらも、やんわりと断るが。
「じゃあ寮まで送るよ。荷物取ってくるから、少し待ってて」
そう言い残して、九条は小走りでこの場を後にした。
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