第10話 「失恋の味」


本当に無心の状態に近かったと言っていいだろう。


一心不乱に悟の部屋から持ち込んだ本を開いて、


本の中に悟と似ている体つきの人がいたり、悟と似ている顔の人がいて、


叶わない恋だと決まってしまったのに未練タラタラで、


本の男性が悟にしか見えなくて・・・


・・・自分が全裸で抜くのはいつぶりだろう。


それだけ俺には、事実を突きつけられたことが受け入れられなかったんだろう。


目の前の画面には、男のちんこを必死にしゃぶっている男が映し出されている。


「俺も悟に・・・こんなことしたかった」


「俺も悟にこんなことされたかった」


叶うことのない思いが交錯して、自慰をする手の速さが上がる。


速さと比例するように、声が漏れる。







初恋は叶うことがない。そんなことはわかっていた。

でも、本当は、叶うかもって、そんな淡い期待を抱いてこの数年間を過ごしてきた。

甘かった。分かっているつもりだった。でもそれは、ただの自己完結だった。


「んっ、んっ、くっ」


悟に届かないこの思い、どこに当てつければいい。


二度と悟に伝えられないこの想い、どうすればいい!!


「はっ、あっ、さ、さとるっ!あぁっあぁ!」




何ヶ月ぶりかの自慰は、辛く悲しいものだった。


手には、大量の自分の精子。まだDVDも終わっていないどころか、まだ全然いいところまで行っていないっていいくらい。


後悔した。後悔してもしきれないくらい。


好きなんだよ。悟のことが。


大好きで大好きでたまらねぇんだよ。悟のことが。


いつでも一緒にいたいし、一緒に笑い合いたいし、抱き合いたいとだって思う。


それは、こんなAVや雑誌なんかで、片付く話じゃない。



・・・悟って彼氏・・・?と会えない時ってしょっちゅう自慰してるのか。


じゃないとこんなに大量の雑誌やDVDを買うわけがない。

お金に余裕もないのに、無理して買っている。


悟も悟で苦労したり、悩んだりしているのはわかる。

俺と一緒に住んでいるから、一応気を使ってくれてはいるのだろう。



・・・考えていてもキリがない。それより、この雑誌たちを片付けないと。ばれたらそれこそ終わりだ。



まだ正気じゃなかったらしい。服も着ないで、悟の部屋から持ってきたものを返しに行こうとした。


その時、自分の手に自分の精子がたまっていることに気づき、


じっと見て、ニヤっと笑って、静かに舐めまわした。


感じたことのない、苦い味が口に残る。


これが俺の『失恋の味』

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