第9話 これでもう二度と

ドアのノブを回し、少し部屋の扉を開けたところで、鋭い冷気が俺に向かってきた。


気圧の違いから起きる風がとても強い。涼しいを通り越している。


恐る恐る中へと足を踏み入れた。


何年も前から入ってこなかった悟の部屋。




6畳半ほどの小さな部屋には、びっしりと棚が並べられている。

そこにはたくさんの本が綺麗に並べられていた。


「悟が昔好きだった漫画・・・」


懐かしい思い出が頭の中を駆け巡った。思わず呟いてしまう。


本や小説でいっぱいになった本棚の一番奥に、違和感を感じた。

あんなものは見覚えがない。

もちろんもう何年も入っていないのだから、見覚えのないものが入っていてもおかしくないのだが、なぜか

そこだけ雰囲気が違ったのだ。


そこは、他の本棚と対照的に、乱雑に物が詰め込まれている。


ここは、最近の悟が使っている本棚なのだろうか。

昔は几帳面だった悟は、やさぐれてしまった時から几帳面さをかけらも表面に出すことはなくなった。


近寄りがたい雰囲気。


“踏み入ってはいけないのではないか、この本棚の前だけは”


でもここまできて、今更怖気付くわけにはいかない。

俺には確かめなくちゃならないことがあるんだ。


その本棚の前に、罪悪感で体を震えさせながら立った時、全身の力が一瞬で抜ける感覚に陥った。


「な、なんだよ・・・これ・・・」


そこにあったのはアダルトもの、いわゆる十八禁と呼ばれるジャンルのものたち。


それだけじゃない。


そこに写っていたのは全員




男だった。


それだけじゃない。


乱雑に詰め込まれたDVDは全てアダルト動画。


それすらも全て




男だった。




「・・・・・・」


あまりにも衝撃的すぎて、言葉にならなかった。


・・・はぁ。こんなもの俺に見せられないよな。悟も。


部屋に入ってくるなといった理由もなんとなくわかった。


なら、悟も昔から、そういう奴だったってことか。



なら、彼女は!?いっつも泊まっているであろう奴は何者なんだよ!


これだけ過激な本や動画があって、ノーマルです!なんてことはあるわけない。


なら、付き合ってる男がいるってことかよ。いや、ただの友達って可能性もあるけど。


酒飲みとなら友達って言葉より、恋人って言葉の方が似合う。


なんだよ・・・じゃあ俺はその誰かわからねぇ男に負けたってことかよ。


自分に自信があるわけじゃない。それでも!!


「許せねぇ・・・」




初恋は叶うはずはない。そんなことわかっていたのに。


傷つく前に、決別しようとしていたのに。


決別する前に、自分で傷つく道を選んでしまった。


悟のせいじゃない。自業自得だ。こんなもの。



期待してはいけないってわかっていたのに、裏切られた気持ちになって、自然と涙が溢れてくる。


ただひたすら溢れ出る涙をグッとこらえて



本棚に詰まっていた本と、自分が見ても問題なさそうなDVDを3つずつ手に取り


自分の部屋に戻った。

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