第6話 サイ○リアにて


高層ビルの立ち並ぶ都会とまではいかないが、決して田舎ではないと思う。

お隣さんはちゃんとお隣さんだし、学校は1km圏内にある。

コンビニだってあるぞ、大型ショッピングモールだってある。


地下鉄があったら便利だなぁと思いつつ、徒歩で近所の飲食店にでも行こうとした。

ファストフード店なら近くにあるのだが、夕飯にそれでは少々物足りない。

そばやうどんでもいいのだが、なんだか気が乗らない。

ファミレス・・・に1人で入るのは虚しい気がする。


基本的に俺は優柔不断だ。

それでもってチキンである。


失敗するのが怖くて何もできない。典型的なチキン。


面倒なので、結局ファミレスにした。

小さい席に座ることができれば、虚しさも緩和されるはず。


〜サイ○リヤ〜


「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「あ、えっと、1人で」

「あっ、お1人様ですか、失礼しました〜」

おいおい、失礼しましたってなんだよ・・・そんなにかわいそうに見えたのか、この女には。

「店内は全面禁煙になっておりますがよろしかったでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫です」

「はい!わかりました!では、こちらへどうぞ!」

そう言われて、店員についていく。ファミレスなんか何年ぶりだろうか。

「1名様ご来店です〜!!」

ちょっ、失礼しました〜とか言っといて、大声でそれ言うってなんだよ。

店内の客の視線が自分に集まったような気がした。




「えーっと、では、ご注文お決まり次第そちらのボタンで宜しくお願いします〜」

「あ、はい。ありがとうございます」

「はい!ごゆっくりどうぞ〜」


さて、と。

やっぱり2人席は1人で座るのには少々広い。

でも、店内のライトがオレンジ灯だから、少し心が落ち着く。

やっぱりライトはオレンジが一番いいな。


バイトで生計をたてている俺たちにとって、無駄遣いは禁物だ。

一番安いハンバーグを注文しよう。

ドリンクは・・・いいや、別に喉は乾かないし。

ライスか、ライスもいいや、面倒だ。


無駄遣いは禁物なのに、冷蔵庫にビールを溜め込むって・・・

どういう神経してるんだよ。


少し悟に苛立ちを覚えつつ、木目の描かれたボタンを押した。


「ただいまお伺いしま〜す!」

ファミレスってこんなに声出すようなところだったか?と思ったと同時に、

「はい!お待たせしました!ご注文をどうぞ!」

「あ、えっと、このハンバーグ、1つ」

「え、あ、はい!こちらですね!以上でよろしいのでしょうか?」

よろしい(の←)でしょうかってなんだよ、悪かったな、金なくて!

「あ、はい、大丈夫です」

「はい!わかりました!ごゆっくりどうぞ〜」

ごゆっくり、ね。はいはい。


ふぅ、と一つため息をついて、いろいろ考えていた。

俺はやっぱり、悟のことが好きだ。

好きって言っても、一緒にいたいとか、そういうことも感じるけど、

やっぱり、恋愛として、俺自身はもちろん、悟にも俺をそういう目で見てほしい。

それに・・・やっぱり、その、えっ、エッチとかも、したいし・・・

でもそれは、多分普通の恋愛感情を持っているであろう悟には求められないことであって・・・


「くそっなんでこんなことで悩まs「お待たせしました!ハンバーグになります!」


やばい、今の・・・聞かれた?

食い気味にハンバーグが完成したことを伝えてきた女は、笑顔を崩さない。

その笑顔を見ても、なんら安心できないが、悩んでいることがある、としかつぶやいていないんだから、男との恋愛について悩んでいるなんて気づくわけないか。


「あ、ありがとうございます」

「ええ!ごゆっくりどうぞ!」


目の前には熱々のハンバーグ。思っていたよりも早く自分のテーブルに運ばれてきた。

フォークとナイフを手に取り、一口頬張った。

値段の割には割といい味だし、量も多めだ。

無駄遣いにならなくてよかった、と胸を撫で下ろした。


ここにいると落ち着くが、さっさと家に帰って掃除、勉強、洗濯・・・やることはたくさんある。

ゆっくり食べたい気持ちを抑え、さっさと食べ終えてしまった。


いくらファミレスとはいえ、テーブルマナーは守ろうと思って、最低限知っていたナイフとフォークの置き方と、美味しかった時のナプキンの置き方を実践して席を立った。


レジにはまたさっきの女が立っている。

「ありがとうございました、お会計398円になります!」

入店時と変わらない元気の良さでの対応に少し疲れた。

財布の中から403円を取り出し、渡した。

「403円からお預かりいたします!はい、5円のお釣りとレシートと、次回使えるクーポン券になっております!」

「あ、ありがとうございます」

「はい!ありがとうございました!またお越しくださいませ!!」

レジの女に頭を下げ、店を出た。

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