第3話 俺たちの過去


俺たちは、物心つく前から一緒に遊んでいた。

親ぐるみでの関係だったから、本当にしょっちゅう遊んでいたらしい。

小学校でも有名になるくらい俺たちは仲が良かった。


でも、小学5年生の時、事故が起こった。

本当に悲しい事故だった。

悟の母親と、俺の母親の乗ったバスが、不運にも落石事故に巻き込まれたのだ、

その事故で亡くなったのは4人。


俺たちの母親は、その中の2人だった。


本当にたまたまだったらしい。落石に巻き込まれたのは車体の後方のみで、

前方に座っていた人たちはほぼ無傷というくらいの事故だったという。


大好きだった母親の死を、まだ小学5年生の俺は受け止めきれなかった。

でも、悟は強かった。

涙はもちろん、泣き言さえも言わず、必死に自分の胸の内にとどめていた。


そしてその日から、お互い父子家庭として生活することになった。

家の中はやっぱりすごく寂しかった。

もう1人いるはずの空間に1人いないだけで、こんなに寂しいとかと実感させられた。

それでも父親は、俺のことを必死で育ててくれた。

家計も決して楽ではなかっただろう。(もともと共働きだったので)

俺たちは寂しいながらも、楽しく生きられる。そう思うようにしていた。


悟の家に行ったり、悟が俺の家に来る回数もさらに増えた。

やっぱりお互い、考えようとしなくても、寂しさ、悲しさがこみ上げてくる。

それでも、悟と一緒にいると、忘れられるくらい幸せだったから・・・


これで終わればよかったのに。


これからは幸せに生きていく。そう思っていたのに。


中学校に進学して間もない時。入学式を終えてワクワクでいっぱいだった時。


俺たちの父親は、2人で外出したっきり、帰ってこなかった。


理由はわからない。でも帰ってこなかった。

1日、2日、1週間、1ヶ月・・・


こんなことがあっていいのだろうか。


俺たちを置いて、俺たちを大切に育ててくれていた大人は、みんなどこかへ行ってしまった。


俺はもうどうしたらいいのかわからなかった。俺たちには祖父母もいない。

親戚にも頼れる人がいない。


俺は涙はもちろん出たが、徒労感、脱力感に襲われた。

とにかく一緒にいれば少しか・・・と思い、悟をうちに泊まらせ続けた。


そして、俺たちの父親は、もう二度と帰ってこないということが知らされた。事故だった。


この歳で、頼れる人をすべて失ってしまった。


尋常じゃないほどの不安、悲しみに、悟は自分を失ってしまった。


毎晩泣きはらし、食事もろくに摂らず、悟らしい笑顔はなくなった。

何日もどこかわからないところに泊まって、2、3日後に帰ってくることだってある。


・・・俺がどれだけ心配してるのか、いい加減わかってくれよ。


そんなこと面と向かって言えない。言えるわけがない。




こんな風に、親を亡くして、2人で暮らすようになって、悟が悟でなくなってしまってから


本気で俺は悟のことが好きなんだな、と気づいたんだ。


どれだけ俺が悟と会えなくたって、悟が俺のことをなんとも思っていなかったとしても

俺は本気で、悟に「初恋」してしまったんだ。

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