007 友は類を大声で呼ぶ

「やばい」

 お昼ご飯を食べながら、多香ちゃんが絶望した顔つきでこっちを見てくる。

「何が?」

「主に数学が、やばい」

 私は多香ちゃんの語彙力が些かやばいと思うけども。

「明日からテストじゃん」

「そうだね」

「テスト勉強しようと思って教科書開いたら、1とか2とか見覚えのない数字が並んでてさ……」

「数字とはだいぶ付き合い長いと思うけど?」

 1とか2とかは流石に見覚えはあるだろ。

「何か自分の記憶を疑ったよね」

「私は多香ちゃんの私生活を疑ってるよ」

「あーや助けて!お願い助けて!」

 そう言って、多香ちゃんは私の腕にしがみ付いて来る。

「いいけど、数学明後日だよ?」

 時間なんてほぼないわけで。宗介にも連休中にみっちりテスト勉強を仕込んでいたけど、宗介の方も危ういんだよね。

 宗介は数学よりも英語がやばそうだけど。

「今日と明日、あーやの家に泊まる!」

「うちに?」

「うん!!駄目!?」

「駄目じゃないけど、私も今日明日泊まりなんだよね……」

 なんたって、英語のテストも明後日なわけである。

「え!?ス、ストーカーの家に!?」

「ストーカーではないけど、思い描いている人物はあってる」

「危ないよ!男は狼なんだよ!?」

「その狼と十数年一緒に暮らしてるから」

 そして、それは今更だろうに。

「あーやの処女か危ない」

 思わず飲んでいた牛乳を危うく吹きそうになる。

 処女って、待って。

「危ないのは多香ちゃんの数学と頭だよ……」

「あ、そう!数学ヤバいの!あーや助けてー!!」

「話がループした」

「泊まりに行ってもいい?」

 あ、これ本当にループする奴だ。

「ストーカーがいいって言ったら、いいよ」

 これはどう考えてもこちらが折れるしかない。

「わぁ!やったぁ!じゃあ、帰ったらお泊まりの用意してあーやの家行くね!」

「……ストーカーの意見は?」

 まだ宗介に何一つ聞いてないのに。

「あってないものだけど?気になるなら聞いてくるね」

 そう言って、多香ちゃんは椅子から立ち上がり、教室を出て行く。

 ……あ。

 止める間もなく、彼女の声が隣の、自分の教室から聞こえてくる。

「鹿山宗介!今日お前の家に泊まるから帰ってくるな!」

 声でかいし、それはお伺いとは言わないと思うよ。多香ちゃん。

「はぁ!?来んなよ!絶対来るな!」

 宗介も声デカイし。隣のクラスにまで聞こえるぐらい大きい声を出す必要とは?

「行くし!絶対行くし!お前が来んな!邪魔すんな!」

 宗介の家だってば。

「俺の家だし!お前が邪魔だからな!?大体、何の用で来るんだよ!」

「数学がヤバい。マジでやばい」

 ここは普通のトーンで言うんだな。でも、隣のクラスまで聞こえるよ、多香ちゃん。

「知るかよ!一人で勉強してろよ!俺だって英語がヤバいし!それに、お前、あの連休で……、取り敢えず邪魔すんなよ!来んな!」

 宗介が叫びたい内容に心当たりは大いにあるが、あれは宗介が悪いと思うので、ここで余分な追及をするのをやめたいと思う。

「お前が来るな!」

「だから、俺の家だっつてんだろ!」

 堂々巡りが始まったなと思いながら、箸を握り直す。

 二人とも普段勉強してない所はどうかと思う。

 でも、二人とも私の名前を絶対上げない所は大好き。

 二人の会話に興味もなくなったところで、ご飯食べよう。

「鹿山の家に桃山さん泊まるの?」

 お弁当をつついていると、二人の声に混じって聞きなれた声が聞こえてくる。

 その声に後ろを振り向けば、ニコニコしながらとある男子が立っていた。

「鳴子君」

「二人とも仲良いよね」

 鳴子君は中学からの同級生で、あの二人と違い、頭脳明晰な持ち主だ。

「鳴子君はテスト勉強大丈夫?」

「それが余り自信なくてね。僕も篠風さんに教えて貰おうかな?」

 爽やかにニコニコ笑いながらそう言ってくる。

「思ってもないこと言われても……」

 私は彼に順位で勝ったことは一度たりともない。

 つまりは、私が彼に教えてられるものは何もないと言うことだ。

「勉強教えあうのどう?」

「私一人が教えてもらうばかりになるから、結構。それに、そんな事したらアイツが煩いでしょ?」

「ああ、そりゃもう、喚くね。近くで煩く」

 とても楽しそうな笑顔でそんな事言わないでよ。

「あ、そういえば、篠風さん達、向こうの駅の本屋に居たよね?」

「この前の連休?うん。居たけど、なんで知ってんの?」

「僕も居たんだよ」

「そうなんだ。なら声かけてよ。全然気付いてなかったし」

「掛けようかと思ったんだけど、真剣に本を選んでたから隣で同じ本を読んだりしてたんだけとね?」

「え?何?その遊び流行っての?」

 宗介もやってたよね?ちょっと意味がわからない。

「あそこの本屋広いよねー」

「うん。私達の家から一番近いもんね。あ、そう、聞いて聞いて!あの本屋にね、この前話してた本が置いてあってね?」

「あ、買ったの?」

「うん、凄く良かった。教えてくれてありがとう」

 勉強ではライバルだと思っているが、鳴子君は私の良き読書仲間でもある。

「続編もそろそろ出るんだって」

「本当に?買わなきゃ」

「また発売日分かったら教えるね」

「いつもありがとう」

「じゃあ、またメールで」

「ん」

「メール?」

 振り向けば、いつの間にか戻ってきた多香ちゃんが立っていた。

「あーや携帯買ったの?」

「うんん。パソコンのメール。鳴子君と私はメル友なのだよ」

「え!?いつから!?初めて知った!」

「中学校から」

 同じ部活だった事もあり、良く趣味の事でメールをしているのだ。

「鳴子とそんなに仲良いの?」

「普通ぐらいじゃない?よくおすすめの本とか話してるだけだし」

 所謂趣味友と言う奴なのだろう。

「で、オッケー貰えた?」

「なんか喚いてたけど、良く言葉分からなかったら大丈夫」

 とびっきりの笑顔で多香ちゃんが笑うが、それは多分大丈夫ではない。

 でも、関係ないんだろうな……。

「多香ちゃん、ヤバいの数学だけ?」

「んー。全体的にヤバいけど、飛び抜けて数学がヤバい」

「……あ、うん。はい」

「取り敢えず、家に帰って用意したら行くね」

「うん、分かった」

 今日皆んな寝れるかなぁ……。

 お弁当が食べ終わり、私は多香ちゃんの教室を出て自分の席へと帰っていく。

 教室に入ればなにやらクラスの中が騒がしい。

 一体どうしたのだろうと顔を向ければ、不機嫌全開な宗介がなにやら友達に囲まれている。

「鹿山君、桃山さんと付き合ってるの!?」

 ……あぁ。

 さっきの一連の遣り取りから出た誤解か。

「付き合ってないし、好きじゃないし」

「でも、泊まるって言ってたよね?」

「許可してねぇし、好きじゃないし」

 よく、周りからお似合いカップルとよく言われる宗介と多香ちゃんの仲は頗る悪いのは言うまでもない。

 美男美女なのは間違いはない。二人並んで歩くと華やかで誰もが振り向く。

 そのせいで、沢山の人達が善意であの二人をくっつけようと、あの手この手で様々な作戦が立てられた。

 彼女の私なんて完全に蚊帳の外である。

 別にいいけども。

 しかし、様々な作戦が成功することなどなくあの二人は今もくっつくことはなく、水と油の関係である事は変わらない。

 二人とも似てるのにね。

 同族嫌悪だろうか。

 あ、でも。


 多香ちゃん、最初は宗介の事が好きだったんだよな……。


 随分と懐かしい事を思い出してしまった。

 多香ちゃんは私が小学校二年生の時に、同じクラスに転校してきた可愛らしい女の子だった。当時から、とても可愛くて、男子や女子にも人気があったのを覚えている。

 その頃から気が強く、何事もハキハキしている多香ちゃんは、転校して間もなく、クラスで一番人気の宗介君の事が好きなった。

 小学生で一番持てるタイプは足が速い奴だ。頭も性格も顔もほぼほぼ関係はない。

 宗介は野生児並みに足が早く、運動神経が良かった。周りの女子は皆んな宗介が好きだったといっても過言ではないが、宗介は昔から宗介だ。

 一言口を開けば、必ず私の名前が出てくる。

 当時、付き合って既に付き合って5年ぐらいの月日が経過していた私と宗介には、当たり前の事である。最近思えば、だいぶその頃ですら、私は宗介には毒されてるなとも思わなくはないけれど。

 私の隣は宗介だったし、宗介の隣は私だった。

 多香ちゃんにとって、それが実に気に食わなかったのだ。

 転校してきたばかりの多香ちゃんには中々受け入れがたい事実なのはわかる。だって、自分が好きな人が、こんな地味を絵に描いたような顔した私みたいな女を彼女と呼び大切にしているのだ。絶世な美少女である私をさにおいて。

 それぐらい、多香ちゃんは可愛かった。決して親友の欲目ではないと思う。

 それから、多香ちゃんは私の事が大嫌いだった。口もきいてもらえなかったし、色々と嫌がらせだってされたりもした。それが段々と周りに広がり、私は女子から完全に孤立してしまったのだ。

 だが、そもそも私に女子の友達は少なかった。連むのは決まって宗介と宗介の友達。小学校二年生と言えば男女の違いなんてそうない頃である。

 だから私は大して気にもしなかった。

 気にしていたのは宗介ぐらいなものだ。宗介はその頃から多香ちゃんが嫌いだと言っていたし。別に他人の好き嫌いについて、私は特に興味がないから、ふーん。で聞き流していたが、周りの女子はそうではなかった。

 周りの女子は、宗介に流される。

 好きな男子が嫌いなものを敬遠してしまうのは、仕方がないのかもしれないが、そのせいで多香ちゃんの周りには誰も近寄らなくなってしまった。

 転校してきたばかりで、好きな男子はこんなブスが好きで、友達も出来ずに、よくわからず避けられてしまって、可哀想。

 なんて、一ミリも思った事もなかったのだけれど。

 先程も言ったように、私は人の好き嫌いに興味なんてない。人は人、私は私。十人十色とはよく言ったものだ。

 そんな私が多香ちゃんに話しかけたきっかけは、多香ちゃんが遠足の時に一人でご飯を食べている所をたまたま見かけた私が、目敏く多香ちゃんの敷いているレジャーシートの柄が私が好きなゲームの柄であった事。

 そのゲーム好きなの?と、自然に話しかけた。

 その時の多香ちゃんの顔は何とも言い難い表情を浮かべていた。

 私、そのゲーム、大好き。今度一緒にやろ?

 微かに頷く多香ちゃんの隣で、騒ぐ宗介達を無視して一緒にご飯を食べた。

 それから、私と多香ちゃんはお互いを親友だと思えるぐらい仲良くなったのだ。

 本当、懐かしい。

 仲良くなってから、今度は多香ちゃんが宗介の事を毛嫌いし始めたんだよね。あの二人、根本というか、性格や考え方の根元が似てる気がする……。


 そんな事をほのぼのと考えながら午後の授業を受け、来たる放課後。

「篠風さんって、鹿山君と同じ中学校だよね?」

「……そうだけど?」

 何故だろうか。友達が一人も出来ていなはずの私が、クラスの女子の輪に囲まれているこの状況は……。

「隣のクラスの桃山と仲良いよね?」

「いつも一緒にご飯食べてるよね?」

「ねぇ、鹿山君と桃山って付き合ってんの?」

 私は溜息をつく。

 折角輪になったのだから、お前を入れてやらんことも無いという申し出ではないとは、一体どう言う了見だと思わないことも無いが、流石にそれは些か都合が良すぎたわけだ。

 これがクラスの女子とのセカンドコンタクトである事実に頭を抱えたいと酷く思う。

「付き合っては、無いと思うけど?」

 二人とも、仲悪いし、彼女私ですし……。

「何でそんな事言えんの?」

「アイツ、今日鹿山君の家に泊まるとか言ってたんですけど」

 ……じゃあ、私じゃなくて2人に聞けばいいのに。

「私に言われても、困……」

「篠風さん、鹿山君の事好きだよね?」

「え、あ、はい」

 悪態をつこうとしていると、何故だか私の話をされて戸惑いを覚える。

「性格悪くない?」

「友達の好きな人に手出すとかないわ」

 ……。

「何を言ってるの?別に私が好きだなんて関係ないでしょ?」

 私の言葉に彼女たちの口が止まる。

「誰が誰を好きになろうが、他人は関係ないじゃない。私が例え、そ……、鹿山君の事が好きでも、それが桃山さんに何一つ関係がない事じゃない。それが何で性格悪いの?私は、態々親友である私に、彼女の事を悪く言う方が、性格悪いと思うけど?」

 本当に、多香ちゃんが昔の様に宗介が好きでも、私は多香ちゃんと親友だと思っているし、それは変わらないし、咎めるつもりもない。

 何で?だとも思わないし、それが悪い事だとも思えない。

 それよりも、私は、私の親友を悪く言う事の方が許せないし、どうかと思う。

「でも……」

 何か反論をしようと口を開く女子に手を挙げる。

 発言したいなら挙手で。私はまだ喋っているのだから。

「貴女達が可哀想な私の為に言ってくれてる事は嬉しいけども、私はこれ以上親友の悪口を聞きたくないし、どれだけ聞いても賛同なんて出来ない。ごめんなさい」

 私は頭を下げて鞄を持って席を立つ。

 感じが悪いだろうが、何だろうが、知ったことではない。

 誰が好きか嫌いかなんて興味はないし、関係などない。

 だけど、私の好きな人を目の前で貶されれば腹も立つし、気分だって悪くなるに決まっている。

「……何あれ」

 後ろから聞こえる声なんて、それこそ興味はないし、関係などない。

 折角明日は念願の内心に直通するテストだと言うのに。少しばかり、胸糞が悪い。




「多香ちゃん、そこ答え違うよ。宗介はもう一度文法見直して」

「え!?なんで!?」

「どうして!?」

 時計の短針は早くも10と書かれた文字の上にいる。

「宗介は前の問題と同じ文法を何故使わない理由を考えて。多香ちゃんは、途中式が……ない、だと?」

「さっき、あーやが自分を信じてって言ったから、自分を信じて答えを書いてみた」

「もっと自分疑って?そこは信じないで?多香ちゃんは公式だけを信じて?」

「それでも俺は綾ちゃんだけを信じてるからね!」

「うっせぇ。途中で入って来んな。そして、宗介は私じゃなくて教科書信じて」

「私もあーやの事信じてるから!」

「だから、多香ちゃんは私も自分も信じなくていいから公式信じてちゃんと使ってあげて」

 全くもって、本当にこの二人、危機感というものを持っているというのか?

 ここまで来ると疑わしい。

「その問題終わったら、明日の教科の勉強するからね」

「明日って何のテスト?」

「知るわけないし」

 ……疑わしいどころじゃない。

「二人とも、一つでも赤点取ったら次のテスト勉強、絶対に付き合わないし、私は鳴子君と勉強するから」

 私の言葉にさっきまで舐め腐った顔をしていた2人が信じられないといった顔をして私の方を見る。

「……な、鳴子と!?」

「……な、なんで!?」

 お前ら本当に息ぴったりだなぁ。

「私がいてもいなくても赤点取るなら、私は私の為に鳴子君と勉強する」

「やだ!」

「駄目!」

「じゃあ、二人とも赤点取らないように真剣に勉強しよ」

 二人とも、鳴子君が嫌いと言うわけではない。

「鳴子と綾ちゃんが一緒に勉強してるなんて、絶対にヤダ!」

「私も、そんなの、絶対に無理!」

「そんなに?」

 嫌いと言うわけではないのに、何故こんなにも反対してくるのだろうか?

「ヤダ。だって、綾ちゃんと鳴子が喋ってるとさ、入れないし」

「わかる。めっちゃ頭いいオーラが出てて話しかけ辛いし、会話に入れる自信がない……」

 ……何だそれ。

「滅茶苦茶頭良さそうな話しかしてないじゃん……」

「この前、二人の会話が何一つ分からずに終わった事がある」

「その二人が勉強なんてしてみろよ!邪魔どころか、気軽に話しかけれもしねぇし!」

「邪魔どころが、自分が要らない子みたいに思えてくるじゃん!?」

「えー。そこ?」

 何だ、そのくだらない理由は。

「でも、本当に嫌なら宗介も多香ちゃんも頑張ってよ。補講や追試なんてヤダよ。多香ちゃんと宗介が補講でいないと、私一人ぼっちで寂しいから」

 そう言って、小さく笑う。

 今日の事でクラスに馴染むのは無理だと早々に諦めれた。

 他人の好きとか嫌いとか興味はないけど、私は自分の好きか嫌いかには人一倍敏感なのだ。

「……って、え?」

 次の言葉が返ってこないと顔を上げれば、2人が黙々と勉強しているではないか。

「急にどうしたの?」

「勉強してるの」

「赤点取らないように」

 ……何というか、現金な奴らめ。

 まあ、それは私もかもだけど。

「……二人とも、ありがとう」

 だって、嬉しくないわけがない。



「ねぇ、ストーカー。何か、今日のあーや変じゃない?」

「お前がストーカーだから。変っていうか、元気ないよな」

「私が居ない間に何やらかした?」

「俺の行動一つでそんなにテンション変わってくれる綾ちゃんなんているわけないだろ。帰り合流した時点で元気なかった」

「風邪とか?」

「体調は悪くなさそうだし、体も熱くなかった」

「ちょっと、気安く私のあーやに触るな変態」

「お前は彼氏に何を言っているんだ。お前だって綾ちゃんに近すぎだら。やめて貰えますか?俺の可愛い綾ちゃんにお前のアホな菌が移るんで」

「そんなことを言ったら、お前のバカ菌が既にあーやの体を蝕んでるんで二度と近寄らないで貰えますか?」

「綾ちゃんと結婚して幸せな家庭を築いて一緒の墓に入る約束があるんで無理です」

「キモっ。本当にキモっ。そんな約束をあーやに言うのがキモいし、させるのが本当にキモい。……何かあったのかな?」

「綾ちゃんは、何かあっても自分から言わないからな」

「知ってる。親友だから。……何かあったら教えて。癪だけど、最終的に頼られるの私じゃないから」

「……そうでもないけど?お前も何かあったら教えろよ。綾ちゃんが弱音吐くの、お前の方がムカつくけど多いと思うし」

「……お前のそういうところ本当嫌いだしムカつく。あーやがお前の事嫌いになればいいのに」

「はっ。絶対にそれ有り得ないわー。俺、凄く綾ちゃんに愛されてるからな」

「英語赤点取って嫌われろ」

「お前も数学赤点取って嫌われろ」

「ちょっと、ちょっと。二人ともさっきの頑張りは何処に行ったわけ?」

 布団を取りに部屋を出た時は二人とも真面目に勉強してた癖に、戻ってきたら赤点の話とは一体どういう事だと言うのか。

「あーやお帰りー!」

「綾ちゃん重かったでしょ?大丈夫?」

「気を利かせて私が布団を取りに行ったのに、なんで二人とも勉強してないの?ほら、布団敷くから二人とも勉強しないなら手伝って」

「はーい!」

「はーい!」

「いや、そこは勉強しろよ」

 そんな元気のいい返事求めてないから。

「布団一つでいいの?」

「綾ちゃんは俺のベッドで一緒に寝るからいらないんだよ」

「あー。成る程、あーやは私と一緒に寝るのね」

「お前は廊下で一人で寝ろ」

「お前は家の外で一人で寝ろ」

「二人とも何言ってるの?私は家に帰るから二人ともここで仲良く寝なよ」

 どれだけ深夜でもすぐ隣が私の家である。ここで三人寝るのは無理があると言うものだ。

「はっ!?何で!?」

「えっ!?どうして!?」

「え、無理でしょ。あと一つ布団敷くの」

「いつもみたいに俺と一緒に寝ればいいじゃん!」

「やだよ。多香ちゃんいるし」

「じゃあ、私があーやと一緒に寝れば良くない!?」

「やだよ。宗介が煩いし。二人で仲良くね?」

 そう言うと、二人が顔を合わせて私に抱きついてくる。

「そっちの方が、絶対にやだ!!」

 ……二人とも、やっぱり息ぴったりで似てるんだよなぁ。

 まあ、だから私もこの二人が好きなのだけど。

「仕方がないなぁ」

 好きなものと嫌いなものがハッキリしてるこの二人とも、私も良く似ているのかもしれないが。

 やはり、類は友を、これまた大声で呼び込むのだろうな。


「で、どっちと一緒に寝るの!?」

「……どっちも面倒くさいから、やっぱり二人で寝てくれる?」

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