004 だって、彼女ですし
「な、何で……?私は、別に……」
ちゃんと隠して来たはずだ。極力最低限の接触しかさせてないししてないし。常に宗介がやらかさないように監視迄も、入学式から今日迄して来てたはずだ。
なにのに、何故……?
何処で?
何処で見られたの……?
「そうだし!大体、あんな奴をあーやの親友の私が認めないし、勝手な事言わないでくれる?」
助けてくれているのか何のか、多香ちゃんが私にフォローを入れてくれる。
た、助けてくれてるんだよね?多分。
「えー。だってねぇ?」
「一年生では有名だしね」
「隠さなくてもみんな知ってるよ?」
嘘、でしょ?
隠してるって、どうして?
自分の顔に血の気が感じられない。
うそ……。私の完璧な高校生活が……。
「だって、篠風さん、いつもずっと鹿山君のこと見てるんだもん」
「へ?」
思わず私は間抜けな声を出して顔を上げる。
「見て、る?」
だけ?
それだけ?
「そうそう。すっごく見てるよね。入学式で、皆んな鹿山君見てたけど、篠風さんが一番見てたよねー」
「え、あ、うん」
確かに見てた。と言うか、睨んでたと言うか、監視してたと言うか……。
「だから、篠風さんが鹿山君好きなのみんな知ってるよ?」
「鹿山君だけじゃない?篠風さんが鹿山君好きな事知らないの」
……なんだ。
そういうことか。
付き合っているのが暴露た訳ではないないのか。
なんだ。ただ、私が一方的に宗介が好きということだけか。
急に肩の力が抜け、はぁと溜息をつく。
……あー。本当にびっくりした。
「はぁ?別にあーやが見てないし。あーやの大きな目が腐るし」
私より何倍もでかい目をした多香ちゃんが私を庇うが、もう大丈夫。
問題はそこでは無い。
「多香ちゃん、もういいから。うん。私、見てたよ」
多香ちゃんの言葉を遮って、私は口を開く。
「中学校一緒なんだよね?」
「なんか知らないの?」
わっとまた囲まれるが、先程までのエンカウントバトルの緊張感は何処にもない。
「知らないかな。私、鹿山君に近づけすらしなかったし」
これは嘘も方便という奴だろう。
「えー。勿体無いよー」
「中学校の時も鹿山君人気で近づけなかったって事?」
「あー。わかるかも」
後半は全くもって同じ学年の女子に人気すら無かったけど。
「そうだね」
適当に話を合わせて難を乗り越えたい。その一心で、私は彼女たちの会話に相槌を打つ。
「じゃあ、桃山さんって、鹿山君と付き合ってないの?」
「はぁ?」
今度はさっき以上に不機嫌な声を多香ちゃんは出す。
「だって、桃山さん篠風さんの親友なんでしょ?親友の好きな人と付き合わなくない?」
「あ、確かに」
誰からともなく、声が上がる。
……あ。
「親友……?」
ポツリと多香ちゃんが呟く。
これは、スイッチが入ってしまったな。
今のうちだとご飯を食べながら多香ちゃんを見てると、多香ちゃんは女子の手を取る。
別にその子が発言したわけじゃないのに。
「そう!あーやと私は親友なの!だから、私はアイツ嫌いなの!」
万遍の笑顔を携えて、キラキラした瞳を大きく見開き、多香ちゃんは高らかに宣言をする。
……親友だからって相手の彼氏嫌いになるものなのかなぁ。別に多香ちゃんの彼氏嫌いになった事ないけど。
あ、やっぱり唐揚げ美味しい。
「あ、うん」
ほら、他の子も困ってるじゃん。
「だから、私達に鹿山君の情報聞かれても役に立たないと思う」
「そっかー。同じ学校なら仲良いと思ったのに」
「でも、確かに鹿山君と篠風さんはグループ違いそうだし」
「残念」
そう言うと、彼女たちはわらわらと私たちの前から離れていく。
「あーや」
「何?」
「聞いた?」
「うん」
聞いた聞いた。私が見過ぎだって事だよね。確かに、必要以上に見てる気がする。
多香ちゃんに言われる迄もなく、気をつけなければ。
「親友だって!私達親友に見えるって!」
「あ、そっち?」
「それ以外になんかあった?」
いやに上機嫌にパンを口に運びながら多香ちゃんは首を捻る。
「……無かったかな?」
暴露てないならどうでもいいか。
「あと、誰がどう言おうと、私と多香ちゃんが親友なのは当たり前だから」
なんせ小学校からの付き合いで、尚且つ多香ちゃんは事あるごとに私を親友と呼ぶし。さっきも言ってたし。
「あーや……!大好き!!」
「ん。それより、玉子焼きも食べてよ。焦げてないの。力作」
「はーい」
それにしても、やっぱり人の目は侮れないな。
特に、女子の目は。
「私、宗介の事好きみたいなんだよね」
ぽつりと、何気無しに宗介の部屋で課題をしながら口を開ける。
「……」
「……何?」
顔をあげれば、馬鹿みたいに口を開けて、驚いた顔でこちらを見てる宗介がいる。
「……どの宗介?」
「はぁ?鹿山の宗介だけど?」
何言ってんの?他に宗介って名前の知り合い居ないし。
「……好きって?」
「恋愛として?って意味で」
私は溜息をつく。
「そうでもないと思ってたけど、やっぱり人間自分の事はわからないもんだよね」
今更気付くなんて。
「……綾ちゃん」
「何?辞書?いる?」
「いらない」
「あっそう。じゃ、何?」
宗介が立ち上がり、私の隣に移動してくる。
何だよ。
「……お弁当、綺麗にしてたじゃん」
「……」
……それを今、蒸し返すなよ。
今思い出しても恥ずかしくて、顔が赤くなるのがわかる。本当、あれは大きな失態だ。
「あれ、俺のためだよね?」
「豚肉、鶏肉、野菜の為でもある」
そこは、重要だから。
「それでも、俺のためだよね?」
「まぁ、そうだけど……」
為というか、なんと言うか。だけど。
「なのに、今更好きみたいって何!?今迄、どういうつもりだったの!?」
……。
「彼女かっ」
何だその気持ち悪い発言は。
「遊びだったの!?」
「だから、彼女か。遊びに何十年掛けてんの、私」
馬鹿じゃないの?
「だって、それ、今迄俺のこと好きだと思った事がないってことでしょ!?今迄もずっと好きじゃないとヤダ!ヤダ!!」
身長178センチの高校生男子とは思えぬ発言にドン引きである。
うわぁ……。
「宗介」
「何!?言い訳!?」
「ちょっと顔、殴っていい?」
「顔!?ドメスティックバイオレンス!?」
いや、凄くイラっとして。
「なんか宗介勘違いしてるけど、そう言う話じゃなくてさ、今日ねーー」
ここで、私は宗介に今日あった話をしてみる。
「あー。確かに、綾ちゃんからの視線が痛いぐらい感じる時がある。特に彼女とかの話を振られると」
「余分な事を言ったらその場で武力による介入を辞さないと思って、見つめている」
「殺気!?それ、殺気!?」
「机ぐらいならいい投げれるかなって。いつも重さを確認してるし、なるべく投げやすく教科書類は入れないようにしてる」
「努力の方向が実に綾ちゃんらしいと思います」
「それが、まさか宗介の事が好きだと思われてるなんて、思いもしなかったけどね」
自分ではわからないものだ。
「これからは宗介を信じて、余り見ないようにしなきゃいけないよね」
今迄、いつも隣にいて、嫌でも目に入ってた訳だけど。
「……いや、別に良くない?」
「何が?」
「綾ちゃんが俺が好きな事バレてるわけでしょ?今更直した方が怪しくない?」
……言われてみれば。確かにそうかも。
「確かに。それは一理ある」
宗介の癖に中々の正論だ。
「……」
「何?」
折角珍しく認めているのに、宗介はただただ驚いた顔をして私を見ていた。
何だ。否定して欲しいのか?
「綾ちゃんが珍しくデレてるって思って」
「はぁ?何?デレるって」
「……ツンの逆?」
「いつもツンツンしてないし。逆ないじゃん」
「いや、だって、さっきの俺の事好きって否定しないし」
……はぁ?
思わず眉間にシワが寄る。
「意味わからない事を言うのやめてくれる?彼女なんだから好きに決まってんでしょ?」
馬鹿じゃないの?
なんで、そこ否定する必要があるわけ?間違ってないし。
というか、今迄嫌いと言った覚えもないし。
「綾ちゃんっ!俺も好きっ!!」
「知ってるし。うっせぇー」
「めっちゃ好き!!大好き!!」
腰をギュウギュウ抱きしめられ、実感痛いし気持ち悪い。
「もう、何か本当に綾ちゃんからの愛をヒシヒシと、今日感じるよね!」
「うっせぇー。何なの。離れてよ」
課題やれよ、課題。
「もう、このまま綾ちゃんを抱きしめて寝れる」
「いや、課題終わってないし迷惑だから。やめてくれる?」
寝るなら一人で寝てくれ。
「一緒に寝ようよ。寂しくて俺、寝れないよ?」
「よかったじゃん。課題やれよ」
「もー、課題と俺どっちが大切なの?」
「別にどっちもどうでもいいけど、敢えて言うのなら内申」
推薦欲しいし。
「……綾ちゃんのそう言う正直なところかっこいいと思う」
「まあね」
漸く宗介が諦めて、元いた位置に戻っていく。
暫く、黙々と二人でページをめくる音とシャーペンの走る音だけが部屋から聞こえる。
「あ」
やはり、その静寂を破るのは宗介からだ。
「綾ちゃんさあ、今度の連休デートしようよ」
本当に何の脈略もない会話である。
「何処に?」
「水族館行かない?」
「水族館とか、女子か」
「綾ちゃんは女子でしょ」
「そうだけど、なんでいきなり水族館?」
特にお互い魚が好きだと言う話はないはすだけど?
食べるのならば鰻は好きだけど。
「父さんがタダ券くれた。職場で貰ったらしい」
「マジか。いいよ。何処の水族館?」
「隣の県の所の」
「まあまあ遠いけど、いいよ。序でに帰りにデカイ本屋寄りたい」
「いいよ。付き合うよ」
「おう、荷物持ちいるの助かる」
「どんだけ本買うきなんですか……」
「欲しい本手当り次第」
「はいはい。あ、漫画買うの覚えておいてよ」
「それぐらい自分で覚えとけよ」
課題の手を止めずに、二人で連休中に向けての話をする。
普通に何が欲しいとか、何処よるとか。
思えば、デートなんて久々かもしれない。基本は家で二人でゲームをしたり、友達の家に行ったりと二人で遠出なんてそんなにしないし。
あ、少し高校生っぽいかも。
「シャチいるって」
「マジか。シャチめっちゃ強いんだよね。この前テレビでやってた」
「俺も強いよ」
「張り合うなよ、人間風情が」
携帯片手に気分も早くも休み気分で、携帯で水族館を調べている宗介に向かって私は消しゴムを弾く。
「痛!」
「痛くないでしょ。早く課題終わらせてよ。遊べないじゃん」
「綾ちゃんの写させてくれればすぐ終わるけど?」
「いつもご利用ありがとうございます。千円になります」
「昨日、肉まん奢りましたけど?」
「肉まんの借りは肉まんで返すから」
肉まん、千円しないし。
「で、何処わかんないの?教えるから」
くだらない会話に終止符を打って、私は辞書片手に宗介の隣に移動する。
「優しい」
「いつもを前につけろ」
失礼な奴だな。
「ここの文法意味わかんない」
「そうか。多分この文法も宗介に意味わかって欲しくないと思うから諦めたら?」
「そこは優しくないんですね!」
「だって、ここ、順番的に宗介に当たる問題でしょ?これ以上宗介の株があがるのは、ちょっと……」
「……え!?何!?本当!?嫉妬!?」
「うん……。そうなのかな」
「綾ちゃんが嫉妬なんて、そんな……、俺今日誕生日じゃないのに……」
「宗介ばかり友達増えるって、何かこう、腹がたつよね。理不尽だとわかってても、殴りたくはなるかな」
「……あ、そっちかー。俺にかー」
「何?ヤキモチやいて欲しいの?」
はっと鼻で笑えば、キラキラと期待した様な目で宗介が見てくる。
「えー……」
「だっていつも俺ばっかりじゃん!」
「えー」
「面倒くさそうな顔しないの!」
「元々の顔だし。それに、私が今以上に焼いてどうすんの?」
「……え?」
何を今更驚いているのやら。
私は呆れながら口を開く。
「当たり前でしょ?だって、彼女ですし」
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