第3話

 スハルザード女公国、首都イレイシア。

 都市転移機巧で着いて夜。宿の食堂で晩食を食んでいると、そこかしこでメリムに関する噂が囁かれているのが分かった。冒険者として鍛えられている聴覚が、街がブラックホールになっているなどという突飛な物や、誰々が戻ってこないなどといった人々の会話を捉える。大まかに受け取ると、どうやらメリム方面に向かった者は誰一人戻らず、住人との連絡も取れない、といった事態が起こっているらしかった。

 このような中どうして隊長は『住民は皆彫像になっている』などという情報をあの場で披露したのだろう。今この状況で思い返してみるとそれも突飛な噂の一つにしか思えなかった。不確かなことを口にしたりしないあの人らしくない。まさか早急にサラを他国へ向かわせるための方便だったりするのだろうか。

 しかし何故自分が送り出されたのかも解らなかった。《望月衆》はトゥルフェニアの国王直属部隊だ。普通他国のことにまで手を出したりしない。

 また、いくら家があるとはいえ、10年以上行ったことがないのだ。サラにとってはメリムは今や故郷という認識さえなかった。何より家自体が残っているかどうかすら怪しいものなのである。

 それに警備隊に解決させてはいけないという。一体どういうことなのだろう。

 理不尽にトゥルフェニアを去らされたようなそわそわと落ち着かない気持ちで、彼女はため息をつくのだった。

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