第2話
「……お帰り」
その女性はこの世の者とは思えないような美しい人だった。
「ただいま~ばば様、今日も皆で頑張ってきたよ~!」
私服に戻った黒髪の少女───セリシアが元気に報告する。
女性はばば様と言われる程の年にはまったく見えない。とても若い。高く見積もってもせいぜい二十台前半にしか見えなかった。
「そうかい。皆無事でなによりだえ」
女性はばば呼ばわりを気にも留めない様子で答える。
「今宵も良い月じゃ。ゆっくりと休むが良いさ」
「はいはーい! 今日のご飯はなにかな~」
セリはわくわくしている様子だ。
「しかしな、雲行きが怪しくての」
グレン婆は少し表情を暗くした。
「サラよ、ちぃとお前に不吉な印が出とるでの……」
女性の館は巷で有名な占い屋だった。今日の営業は終了しているが。
「何ですか……」
ローブを脱いだ少女───髪も目も何もかもが青いサラが表情をしかめて問い返す。
「お前の家にお帰り。大変なことが起きておる」
「大変なこと?」
サラは困惑する。家と言ってもピンとくるものはなく、そう言えばと何とか思い出す。そもそもあんな家なんて小さい頃に数回立ち寄っただけの場所だ。両親は行商でそれに連れて行かれていたのだから。
「スハルザードのメリムの町にお向かい」
だがグレン婆はそう繰り返すのみだった。
「かの国の王立警備隊が対処する前に誰かがやらなくてはいけないよ」
「……?」
この人は千里眼持ちだった。そして過去も未来も見えている。そして本当はここに『居ない人間』だった。
そしていつも、大事なことは言わない。というより言えない。
現実に過大な影響を与えてはならない、らしい。
だというのにサラに具体的な指示を出してきた。一体どういうことなのだろう。
「お前が居ない間のことは任せておけ。六班はいったん一班が吸収してともに動く」
部屋の陰からゆっくりと中年の男性が進み出てきた。
「隊長? なんかほんとに大変なことが起きてるんだね?」
セリシアがきょとんとして言う。
「行って来い。そしてちゃんと帰って来い」
アイリスが淡々と言う。どうやらこれで大変だということを鑑みて気遣っているらしい。
「じゃぁ明日朝……」
「いや、もう転移機巧で首都までお行き。ウィル、金子を」
「ああ」
言われて隊長がさし出した袋は両手いっぱいになるものだった。多すぎないか?
「冒険者登録証もありますからこんなには……」
「それがきかねぇんだよ。メリムに着く前に食糧だのなんだの全部揃えろ。最悪長期になることを考えろよ」
「ちょっと、ちょっと、何が起きているんですか」
グレン婆が喋れないのは分かっているが、ウィルも何かを知っていそうなそぶりだ。
「ウチの情報じゃな、メリムの住民は皆彫像になってる。宿なんて取れんぞ。あとすぐに噂は広まるだろう。急げ」
「へ……?」
その場にいた二班と六班のメンバーは困惑するしかなかった。
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