白霧に迷う町

千里亭希遊

第1話

「第六班、いつでも」

 アイリスが《ネットワーク》を介し通信する。

 四人は壁に身を潜めて辺りを覗っていた。

『オーケイ。対象は予定通り商談中』

 返答が来る。

『第二班、西側より五秒後に突入する。六班も合わせてくれ』

「了解」

 二、一。

 ドシャン!

 窓を破る音がほぼ同時に二つ。

 動揺している対象四名を問答無用で羽交い絞めにする。

 同時に手の空いた六人が取り囲み、それぞれ武器あるいは魔法を溜めた手のひらをつきつける。

「危険指定第八項目・トランス剤レミュの栽培及び売買により貴様らを連行する」

 第二班班長ラズベルトー=リューグが弓を構えて言い放つ。

 その矢には魔法の光が伴われていた。

 動揺が溶けて暴れだそうとする犯行グループだが彼らはびくともしなかった。

「クソが! 王宮の犬め!」

 近衛の団服から判断したのだろうが。

「違いますね」

 ラズは答えた。

「僕たちは『国の』犬です」

 差が分からず被疑者たちは困惑する、が一人が呟いた。

「仮面……まさか、も」

「おや、ご存知ですか」

 にっこりとメンバーは笑った。

「『僕ら』が動いたということは、そういうことです」

 ラズはあくまでにこにこしながら言った。

「……お……お終いだ……どこもかしこもぶっ潰されてら……」

「どういうことだよ」

 力なく頭を垂れる男に仲間が語気荒く問いかける。

「知らねぇのかよ……こいつらぁ……法すら無視する制裁者だ……」

「随分誇張されてますね……」

 仮面どころかローブにフードで男女の区別すらつかなかった長身が声を発する。どうやら女らしい。

「稀にやってるから仕方ないよっあははっ」

 肩までのつややかな黒髪をした少女が明るく笑いながら言う。笑う所なのかと犯人たちは震えた。

「心配なさらずともこんなことで命は取りませんよ。何年投獄されるかは僕たちの知ったことじゃありませんけど」

 ラズの物言いに内心怒りを覚えた者もいたがおとなしく口をつぐんだ。こいつらはこの場で人を殺めることなどきっとためらわないだろう。

「さぁて、じゃぁ、行きますよ」

 そして十人は犯行グループを縛り上げ馬車につめこんだのだった。

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