第9話

初めて男子と付き合って、初めてのランチ。

「…」

ご飯の味がわからない。

たまに一緒に食べる、鷹司先輩となら、賑やかにお弁当やお菓子とか料理の話が出来るし、

赤城くんとなら野球の話とか色々盛り上がるし、

私は男子と話すの平気な筈なのに。

「…」

二人、沈黙のまま…。

私は仕方なく、オムライスの上にケチャップで絵を書く。

「うわ!」

藤倉くん、絶叫。

「なにそれ!」

「藤倉くんの似顔絵」

「うわあああ。か…かわいい」

「藤倉くん、かわいいし」

「バカ!ばかばか!かわいいのは新川さんだ!かわいいといえば新川さんだ!」

「それはないない。彼氏の欲目フィルターだよ」

「うわ」

藤倉くん、口をあける。

「彼氏…彼氏って言ってくれた」

「う、うん、いった…」

「俺、新川さんの彼氏?」

「え、違うの…かな。友達?」

ケチャップで藤倉くんの顔を書いた後かたまる私。

「…顔…崩さないとオムライスが食べられない…」

人様の顔を描いておきながら、食っちゃうってどうよ、私。

(ど、どうしよ)

藤倉くんに、グイッと押し出した。

「食べる?」

「いいの?俺が俺を食っていいの?」

「う、うん!」

とりあえず藤倉くんに渡したら、めちゃくちゃ喜んでくれた。

「わあん!俺うまあい!」

嬉しそうにパクパク。

「あ、俺ばっかり食ってる。はい」

藤倉くんがスプーンでオムライスをすくった。

「新川さん、あ~ん!」

「!」

…ど、どうしよう!

食べるべきなの?

恥ずかしくない?

でも、とりあえず

「あ、あーん」

藤倉くんが私の口の中にオムライスをいれた。

(間接キス+あ~んしちゃった!)

藤倉くんが、にっこりした。

「かわいい!小鳥飼ってるみたい!手に乗らないかなあ!」

「の、乗らない!絶対乗れない!普通に大きいから、私!」

「え~。懐いてくんないの?」

「な、懐く?」

「手とか膝に乗ってほしいな、俺」

「…膝…」

膝は乗れるけど

でも…

男子の膝に乗る時ってどんな時?

「ああ、赤城が羨ましいなー。クラス一緒だし、隣の席だし」

「…(隣の席だけど膝は乗らないよ、フツー)」

「あ、今度の日曜日、水族館行こうか?」

藤倉くんがのぞきこんでくる。

「シャチのぬいぐるみ、見に行こ」

「だめ!」

…だめ!と言ったのは私ではない。

藤倉くんの後ろにいきなり立ったジャージ姿の美人だ。

「彗!」

(え、彗って、藤倉くんの下の名前…)

「バスケの練習日だから!水族館なんかいかせないよ」

「わあ、マネージャー!」ショートカットの美人は藤倉くんの耳を引っ張った。

「いだだだ…痛い」

「デートなんて、百年早いわ!試合に集中しろ!」

美人は私をまっすぐ見た。

「新川さんだっけ?」

「は、はい」

「こいつ、彼女出来たって、浮ついてるけど、スポーツ推薦だからね。部活の成績は絶対落とせない。

誘惑しないでよね」

「え、誘惑なんてしてないです」

思わず、ムッとする。

(なんなの、この人!)

「放課後も朝も土日も部活だから。

うちは県内屈指の強豪なの。

彼女と遊んでる暇はないよ、藤倉!

あんたの友達の柏原や西山はともかく、あんたは推薦で大学も行くんだから、女の子とつき合うなら、社会人になってからだ!」

「やだ!」

藤倉くんがマネージャーを睨んだ。

「俺、新川さんと別れないからな!新川さんも俺と別れるな!部活と新川さんなら、俺は新川さんをとる!」

「…」

どうしよう…



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