第8話
「やあ」
学校で一番かっこいい先輩に手を振られる。
鷹司翔先輩。
鎌倉時代から続く和菓子屋の息子で読者モデル。お洒落で話すと楽しい、優しい人だ。
「優衣ちゃん、今日のお弁当なあに?」
「オムライスにブロッコリーと人参。デザートに抹茶プリンです。夏前だから、卵製品もダメになんないかなあと思って」
「こないだ作ってた、抹茶フィナンシェもおいしかった」
先輩は時々私のお弁当をチェックする。そしてたまに食べちゃう。そのかわり、学食をごちそうしてくれる。
「炊き込みご飯の予定はいつ?」
「もち米入りの鳥牛蒡?」
「そうそう。あれはうまかった。卵焼きも甘くて良かった。紅白蓮根に鯛の塩焼き。デザートが栗饅頭」
「秋メニューですよ、それ」
「春バージョンで作ってよ」
「明日、ちらし寿司にするって、お母さんが言ってましたよ。茶碗蒸しつけるってムチャクチャ言ってました。お弁当に茶碗蒸しってチャレンジャーですよね」
「いーなー。俺の分も持ってきてね。そのかわり、くず桜と、新作和菓子あげる」
「やった!」
鷹司先輩がにっこり。私もにっこり。
手をぶんぶん振って別れた。
(楽しみだあ、新作和菓子)
藤倉くんと待ち合わせの中庭に行く。
もう藤倉くんは来ていた。まわりに男子がいっぱいいる。
「藤倉、新川さんと飯食うのか」
「うん」
藤倉くん、頷く。
(頷く藤倉くんってかわいいなあ)
「お前、新川さんとした?」
「何を」
「ちゅーとか」
(ぎゃああああ)
なんちゅう会話してんの、男子は!
「あのなあ!」
藤倉くん、若干切れ気味。
「そういうことは内緒にするもんだろ!」
「えーーーっ俺なら言う~」
「西ヤンがエロすぎなんだよ!」
「なに言ってんだ!藤倉だってエロいだろ!巨乳好きのくせに!」
「新川さん、でかい?」
「ばか!」
藤倉くんが、男子の頭をポカって殴った。
「新川さんをそーゆー目でみるな!見ていいのは俺だけだ!」
「見たのか!」
「見ない!見てもいわない!新川さんは壊れやすいんだ!」
「どこが?こないだ、すげえ重い人体模型を一人で抱えて歩いてたぞ」
「あ、俺も見た」
別の男子も大暴露。
「赤城と腕相撲してた」
「スーパーで試食食ってた」
「音楽のセンセと連弾して、センセがミスったらぶん殴ってた」
「鷹司先輩にケツダンス教わってた」
「くそ生意気な小石川をこづいてた」
「こないだ駅前でたこ焼き買ってた。十二個入り」
「体育館のマット、一人で黙々と運んでた」
「…お前ら…」
藤倉くんが唸ってる。
「新川さんのこと、見過ぎだ!」
ついに怒鳴った。
「新川さんを見ていいのは俺だけだ!」
(……どうしよう、出ていきづらい……。昼休みが終わっちゃうよぅ)
影で突っ立っていたら、後ろから声がした。
「こんなこったろうと思ったわ」
「赤城くん!」
「ほら!いくぞ!」
私の背中をたたく。そしてデカい声で言う。
「藤倉!新川さん、きてるぞ」
くるっと藤倉くんが振り向く。みるみる真っ赤。
「…」
(どうしよう…
えーっと。
こんにちは、じゃ変だしな)
固まる私に赤城くんが背後から囁く。
「隣にいきな。他の男どもは俺が回収するから」
「う、うん」
私は下を向いて、泣きそうになりながら、藤倉くんの前に行った。
藤倉くんは真っ赤な顔で私を見てる。
「ほらほら。休み時間終わるぞ」
赤城くんが他の男子を連れ帰る。
私と藤倉くんだけが残った。
「…」
「…」
どうしよう。
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