第5話
「夢だったんだ。好きな女の子を家まで送るの」
藤倉くんが私の家まで送るという。
「今日はいっぱい夢が叶った」
小首を傾げ、はにかむように笑う藤倉くん。
「…優衣…」
(え、呼び捨て?)
不意に抱きすくめられる。
「…」
動物園のフラミンゴの前。ピンク色の羽が舞う中、藤倉くんの胸にすっぽりとおさまった。
「ありがと。すげー思い出になった」
堅い胸板が厚い。二の腕がしっかり私を護るようにくるむ。
「やっぱ華奢」
「…」
耳元に藤倉くんの吐息がかかる。
「やっぱかわいいよ。新川さん、折れそう。だけど壊れちゃいそうでも大好き。大切にしたい」
「…」
「大好きだよ、優衣」
抱き締める腕が心地良い。うちのぬいぐるみのバクをもっともっと大きくしたみたい。
「これを最後にしたくない」
「…」
藤倉くんはほんの少し体を離して、じっと私を見た。
「友達で終わらせないで」
かすれた声が私に告げる。
「やっぱ好きだ。友達じゃ苦しい。俺を好きになって」
「…」
切なげな瞳が熱っぽく、甘く艶やかに私を見る。
「俺と付き合って。大切にするから」
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。
「藤倉くん…苦しいよぅ」
「…わわ、ごめん?ごめん!壊れた?折れた?大丈夫?」
「だ、大丈夫。でも、展開早すぎだよぅ」
「え」
「だって、いきなり…」
「へ」
「いきなり、動物園で抱きしめられたら怖いよ」
「ご、ごめん」
ぱっと離れた藤倉くん。
私は下を向いた。
「藤倉くんには、何人目かの彼女でも、私は初めてだから…抱っこされるの慣れてないから、急に色々しないで!ちゃんと友達からにして…怖いよ…」
「ごめん…でも」
「でも?」
「俺も初めてだよ」
「え」
「女の子と付き合うのも告白するのも、好きになるのも」
「ええ?でもユキが、藤倉くんはモテモテだって言ってたよ!」
「モテモテでどうすんだよ!」
「?」
「好きな女に好かれないで怖がられてどうすんだ!
好きな女に好きになってもらいたくて何が悪い!」
「…」
「俺、新川さんが好きだ。死ぬほど好きだ。毎日夢に見るし、あなたのクラスメートが羨ましくて歯軋りする。
友達からでもいい。
でも友達で終わりたくない。
俺、本気だし、あなたしかいらない」
藤倉くんは、真剣に私に告白する。
私は、どうしていいかわからず、小さく頷いた。
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