第4話

好きだって言ってくれた男の子が、好きだって言ってくれた理由を噛み締めながら、私は歩く。彼と手をつないで。

ギクシャクギクシャク。

(つないだ手が熱い!)

小指だけ絡めてるけど、脈打つ。

ドキンドキンドキン…。

彼をチラッと見上げたら、全身真っ赤で、ロボットみたいに動いてる。

(この人…ホントに私が好きなんだ)

彼の不器用さが心に染み渡った。


…初めてのデートは動物園。

いや、日差しが痛い。

熱が出そう。

(お茶飲みたい…って言っていいのかな)

「あのう…喉かわかない?」

恐る恐る伝えると、藤倉くんの首が不自然に曲がり、こっちを見た。

更に真っ赤!

つられて私が真っ赤!

「しょ、食堂に入る?」

「え、自販機でいいよ」

私は指差す。

「あそこなら日陰にベンチもあるし」

私たちは並んで自販機の前に立つ。

藤倉くんが硬貨を入れた。

「押して」

「え」

「好きなの押して」

「え、でも…」

動物園の入場料も強引に出してくれたのに、お茶もなんて…

「おごりたいんだ」

かすれた声で言う藤倉くん。ふと見たら凛とした横顔が男っぽかった。

「今日、付き合ってくれてありがとう」

藤倉くんが続けて言う。

「俺、ずっと新川さんと一緒に歩きたかった」「…」

「駆け寄ったり話しかけたり手をつなぎたかった。あなたは俺を知らなくても俺はずっとあなたを見てたから」

「…」

「同じクラスの奴が羨ましかったな」

「…」

自販機からコトンッと落ちるお茶。

「あ」

藤倉くんが続けて買ったのも同じで。

「これが一番うまいよな」

「うん」

「でも、この自販機、レベル高い。俺が好きなのばっかり」

「あ、私もこれ大好き」

「ホント?」

藤倉くんの目が丸くなり、次ににこおっと目を細めて笑った。

「良かったあ」

たったこれだけのことなのに嬉しそうな藤倉くんは、私のペットボトルに軽くぶつけてきた。

「かんぱーい」

「あ、かんぱーい」

釣られた私のすぐ隣で、グビグビお茶を飲む藤倉くん。喉が動いている。

ぷはーっていう感じ。

私はこれを飲むのを見られるのかと思ったら意味もなくドキドキしてきた。

(コップないし)

私は両手で持って、ほんのちょっと口をつけた。

案の定見てる藤倉くん。

「は、恥ずかしいからダメ」

ペシッと藤倉くんの肩を叩いた。

「わっ」

藤倉くんが驚いた顔をし、すぐに破顔した。

「いいじゃん。見たいんだもん」

「やだ。あっち向いてて」

「飲ましてあげよっか」

「えええ、どうやって」

「フタをコップにして」

「えー?無理がない?絶対こぼすよ」

私は背中を向けてお茶を飲んだ。

やっと少しリラックスしてきた。

二人でぶらぶら歩く。

「バクでかっ」

「私、この子のぬいぐるみあるよ。一緒に寝てる」

「へー」

「抱き枕だから大きいよ。すっごい気持ちぃよ。意外と筋肉質で固いの」

「…筋肉質で固い抱き枕…気持ちいい」

妙に考えこむ藤倉くん。何故かむせている。

「え?なに?」

「いやいやいや」

藤倉くん、大慌て。

「かわうそ、かわいー」

「だじゃれ?」

「いやいやいや」


お昼ご飯。

「まさか、お弁当?」

「うん。あ、好き嫌い多い?」

「ない!新川さんが作ったら絶対ない!」

「ほとんどお母さんが作ったんだけど、でも卵焼きと唐揚げ当番は私。あ、あとうさぎりんごは私。おむすびはツナが私、梅がお母さん」

「ツナどれ」

「ハートの形の海苔がツナだよ」

「ツナもらう」

藤倉くんが私のおむすびを食べ始めた。

涙目になっている。

「うまい」

「ホント?」

「うん」

嬉しそうなので、私も嬉しい。

(でも梅むすびを食べてくれそうにないから、これは私が食べよう)

パクッと頬張っていたら、藤倉くんの手が伸びてきた。

(え?)

「ごはんつぶが唇の端っこについてるよ、ほら」

藤倉くんが取る。

「新川さん、甘えっ子」

そのまま食べてしまう藤倉くん。

(たまに子供っぽいのに、時折大人…)

藤倉くんのアンバランスさにキュンッとする。

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