第十二話:遊園地・その二

「やっべー……どこだ? どこにいるのか全然分かんねーぞおい」


 ナイトパレードは、既に始まっていた。

 あちこちに備え付けられたマイクから流れる賑やかな音楽と、歓声。目映く輝く七色の光。群衆は煌びやかなその元へ集う


 そんな様々な障害に揉まれながら、拓二の想像通り、夕平は暁を探し回っていた。

 パレードによって増えてきた人の波を縫うようにして探していたはずが、何時しか彼自身気付かない内にお化け屋敷からかなり遠い場所にまで流されてしまっていた。

 要は、迷子を捜して迷子になったのだった。


「あ、すんませーん! ちょっと聞きたいんすけど、この辺りで女の子見ませんでしたー? えっと、背はこんくらい小さくて────」


 他の客にも暁の所在を訊いてはいたが、当然収穫は無い。実際、暁と場所が遠いせいでもあるが、夕平の説明はいまいち要領を得ず、訊かれた人間もさっぱり分からなかったのだ。


「くそっ、参ったな……」


 パレード付近以外は既に暗く、お土産を買うためのショップや道しるべとなる最低限の案内灯くらいしか光がない。パレードの見映えのためなのだろう、ほぼ全てのアトラクションが一時的に営業を停止していた。

 人の行き来の中、一人ぽつんと残される夕平。

 時間だけが流れ、途方に暮れつつあった。


「……あ、そうだ! ケータイ!」


 今になってようやく暁との連絡手段に頭が回り始めたのか、持っていた荷物に目を向け────


「……あれっ? う、嘘だろっ?」


 荷物────ケータイと財布を入れたポーチバッグが、無い。

 だが、すぐに思い至った。

 お化け屋敷に入る時に、その入り口のすぐそばで荷物を預けていた事を。


 この遊園地のお化け屋敷では、その中で入場客が荷物を無くさないようにするための配慮として、貴重品を預かることになっていたのだ。当然、外に出る時には返してもらえるのだが、夕平は暁を追いかけるのに夢中で突っ走ってしまったため、その荷物を受け取り損ねてしまっていた。

 つまり遊園地側の配慮も、今となっては仇となってしまったのだった。


「まじかよ……何やってんだ俺」


 思わず、へたり付きそうになる。

 パレードの雰囲気に酔って気分が上がり、盛り上がる周囲とは対照的に、不甲斐なさが込み上げてきた。


『……夕平、お前は暁をもっとよく見てやってくれ』


 ふと、こんな言葉が心内に蘇る。

 それは、数日前に拓二から言われた一言だった。

 まっすぐな眼差しだった。普段のような、からかい合うような雰囲気はまったく無く、今まで見せたことの無い真剣な表情で、夕平を射抜いていた。 

 拓二が一体何を思ってそんなことを言ったのかは、夕平には分からないでいた。

 しかし、期待と不安が入り混じりながら、それでも言葉少なに自分に何かを託してくれたという事は、彼でも理解できた。


 だが今、自分が目を離した結果、あえなく暁を見失ってしまっている。というか自分まで迷子になってしまっている。

 拓二と約束したばかりだというのに、このざまだ。


「はあーあ……何が一番大事だよ。かっこつけといてこれって、最悪じゃん俺……」

「…………」

「ってか、そもそもいのりちゃんと相川をパレードの時間になったら二人だけにするつもりだったのに、これじゃ俺達を探しにきちまうじゃねーかよ……」

「…………」

「はあーあ……どうしてこうなった……」


 うつむいている夕平は気付かないまま、そんな彼のちっぽけな背に、ぬっと影が伸びていた。

 普通の人間よりも大きなその影は、夕平を頭上から黙って見下ろしている。


 やがて、気配に気付いた夕平が顔を持ち上げ、


「なっ、うおわっ!?」


 逆光に目を取られ、一瞬目の前の謎の物体にのけぞる。

 だが、すぐに目が馴染み、その正体の姿を認識した。

 その視線の先にいるのは、この遊園地のマスコット、ターピーくんだった。


 その事に気付いた夕平は、すぐにほっと息を吐いた。


「────あ、ああ。なんだ、千夜川先輩か」

「…………」


 もちろん、そのキグルミからは傍から見て誰が中にいるかは分からない。

 だが、夕平は桜季の事を知っている。


 というのも、祈と拓二を二人にするという夕平の計画は、もともと夕平が桜季に頼み込んで成ったものだった。それも、拓二に悟られないように暁にもその全貌は教えないといった徹底さで。ここまでの展開は、夕平と桜季二人だけで仕組んだものだったのだ。

 つまり、桜季もこの件に一枚噛んでいたということである。正確には、夕平が考案し、桜季がそれを手伝ったという形であるが。


 まず、暁を誘い、祈と三人で時間を過ごす間、前もって桜季が遊園地で待機する。

 そしてパレードが始まる時間よりも少し早く集合し、三人で拓二を待つ。服の件は、ある意味好都合だった。拓二に祈の恭順さをアピールでき、かつ三人でいることに自然な理由が作れる。

 遊園地に入ったら、バイトという体で桜季がキグルミを着込んで接触し、四人を適当な理由で分断させる。もっとも、この時点で拓二には察しがつかれていたが夕平にはそれを知る由もない。

 だが事実、分断には成功していたのだから問題は無かった。そう、『ここまでは』。


「……ご、ごめん先輩。俺、余計な事やっちまった……かも」

「…………」


 ターピーくんのキグルミが、もっこもこの手に乗っかったピンク色のケータイを差し出す。

 その電話は、通話中の画面が表示されていた。その着信先は────


「っ! も、もしもし暁!?」


 かっさらうように、そのケータイを手に取った。

 その電話口から、聞き慣れた声が耳に入って来た。


『あ、夕平! ああ良かったー、今どこ?』

「あ、ああ。俺は大丈夫だ。今、千夜川先輩と一緒にいるから。ていうかそれよりっ、お前どこにいるんだ!?」

『え? お化け屋敷の前の植え込みで座ってるけど』

「へ……?」


 予想だにしない答えに、素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ま、まじか……そんな近くにいたのかよお前」

『しょ、しょうがないでしょ? お化け屋敷から出たら足が、その……竦んじゃって。相川くんといのりちゃんに見つけてもらったの』

「あ、そうなのか……その、相川は」

『今夕平を探しに行ったよ。いのりちゃんが私の事見てくれてるの』

「うわ……嘘だろ」


 最後の希望も、これで断たれた。

 失敗した。これでは完全に、よりによって自分のせいで二人きりにさせるチャンスを潰してしまったという事ではないか。


『……ごめんね、夕平』


 そう頭を抱えてやりたくなるような後悔に苛まれていると、暁は電話の向こうでそう口を開いた。


「な、なんだよ? 急に」

『いのりちゃんが全部教えてくれたの。夕平が千夜川先輩と一緒になって相川くんといのりちゃんのために色々してたって事。お化け屋敷で二人きりにしてあげようとしてた事も』

「さ、流石いのりちゃんやで……」


 そこまでこちらの事がお見通しだと、まるで、祈までこちら側であるかのような錯覚さえ抱いてしまう。

 流石あの相川が認めるだけあるなー、とぼんやり夕平が思ってると、暁がこう続けた。


『だから、その……ごめん。二人の計画台無しにしちゃって』

「お、おいおい。別に謝らなくても────」


 夕平にとって、しおらしい暁というのはあまりよくあることじゃなかった。

 夕平のツッコみ役として、時に激しいストッパー役として自他ともに認めていたからだ。


 だが、暁は元来明朗快活な性格の少女ではない。

 ただそれが、幼なじみゆうへいに対して『だけ』の気兼ねしない関係だからこそ生まれる遠慮の無さであることを、夕平は知らなかった。近しい仲だからこそ、意外な一面だった。

 だからこそ、変に焦ってしまう。


『私は大丈夫だから、夕平は相川くんと合流して。アンタの荷物は相川くんが全部預かってるんだから。相川くんにも夕平が見つかったって、伝えとくからさ。あと、千夜川先輩にも、ごめんなさいって謝っておいてね。それじゃ』

「あ、ああ……」


 それだけ言い残して、電話は切れてしまう。


「…………」

「切れちまった……」

「…………」

「あ、千夜川先輩、あんがとな。ケータイ」


 夕平がケータイを返すと、キグルミはこくりと頷いて、それを受け取った。


「あと、暁がごめんなさいってさ。律儀だよなあ、あいつも」

「…………」

「……俺からも、その、ごめん。せっかく、先輩が協力してくれたのに」


 そう謝ると、キグルミ、もとい桜季は黙ったままじっと彼を凝視する。そんな彼女の内心は、その(うさぎの)表情からはうかがい知れない。

 やがて、その指の無い手で、返してもらったケータイを操作した。

 文字を打っているらしい。ターピー君の姿で喋っているところを見られるのは具合が良くないのだろう。

 そしてその画面を、夕平へと向けた。


『気にしないで』

「……器用だな、先輩」


 その折、頭上高くで一発の花火が上がった。

 どっと歓声が沸き起こる。

 そんな騒がしいお祭りの中、夕平は独り言を呟くかのように小さく口を開いた。


「……あのさ。ちょっと話、聞いてもらってもいいか?」

「……?」

「俺が……こんな似合いもしない恋のキューピッド役みたいなことした理由だよ。まあもちろん、いのりちゃんと相川を引っ付けさせようってのもあるんだけど、他にももう一つだけあって……」


 キグルミ姿の桜季は何も言わず、そっと夕平の隣に居直った。

 子をあやす親のように。

 現実は何ともシュールな絵なのだが、夕平は気にもかけず、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「この間な、相川に『暁を頼む』ってな事を言われてさ。んでその後もまあ色々……親友と散り散りになったとか……後悔してる、とか突然過去話みたいなのも聞かされてさあ。それで」

「…………」

「……それで、最後にあいつ……『お前は、絶対に俺のようになるな』って」


 彼の言葉は、まるで煙のように宙に溶けていく。桜季は、身じろぎ一つしなかった。


「あー……なんつうか、そん時の相川を見ないと伝えにくいけど、漫画でよくあるだろ? あー……」

『今生の別れ?』


 何時の間に打ち込んだのか、その文字を書いたメール作成画面を見せる桜季。


「あ、ああ! そうそれ! 『ここは俺に任せて先に行け!』みたいな。『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』みたいな?」

『つまり彼から、そんな雰囲気を感じたんだね』

「うん……」


 あの公園でのやり取りを夕平は思い出す。


 拓二がまるで、ささくれ立った過去(トラウマ)を血がにじむ程えぐり返したかのように。

 ────悲しそうに、笑っていた事を。


 それは図らずも、何時の日か暁も感付いていたことだった。

 夕平は、ムゲンループの事も『これから起こる事』も、何も知らない。その親友が、別の世界の彼ら自身である事も。

 知らないからこそ、拓二の雰囲気から感じるものがあったのだろう。その生き方に、夕平なりに見て取れるものがあったのだろう。

 夕平が心情を説明するに足りる語彙に困らない人間であれば――――それは、一種の悲壮感とでも表現したかもしれない。


「だから……そうだな。その時、相川がどっか遠くに行っちまいそうに感じたんだよ」

「…………」

「誰にも分からないような事を一人で抱えてるみたいな。誰にも頼らずに、頼れずに一人で何かを乗り越えようとしてる、みたいな。……だから、それが少しでもいのりちゃんで癒せられたらなー、なんて思ったんだ」

『優しいんだね、桧作くんは』

「いやいや、そんなんじゃないない! 俺はあいつに何も返せてないし、むしろ借り作ってばっかりだ」


 固辞するように、夕平は手を横に振った。

 だが、優しいと言われたことに関してはまんざらでもなさそうで、少し照れた表情を浮かべていた。


「だからまあ、今回みたいなミスはしたくなかったんだけどなあ……」

『仕方ないよ。でもきっと、キミの一生懸命な所は分かってくれるんじゃないかな?』


 その文面を見て、小さく吹き出した。


「ぶふっ、メール画面の文字で慰められてもな」


 メールでそんなフォローをされても、棒読みで言われてる気しかしないのが変に可笑しかった。


「……でも、ちょっと元気出たかもな。ありがとう先輩」


 ぐんと身体を伸ばすように立ち上がる。そして桜季の方へにんまりと、何の翳りもない満面の笑みを浮かべてみせた。


「そろそろ俺、みんなのとこに戻るよ。千夜川先輩はどうする?」

『私は、まだ仕事が残ってるから。このまま私はいなかったってことでここでお別れしとく。まあみんな私の事は知ってるみたいだけどね』

「そっか。りょーかい」


 そのまま、きょろきょろと周りを見渡す。

 パレードは進み、終着点であるかなり遠くの広場に近付いているらしかった。


「……あ、そうだ」


 ふと、思い出したかのように、

 本当に何の気なしに、

 夕平はこう告げた。



「────……千夜川先輩も、頼りないかもしれないけど、俺とか誰か人を頼ってみてくれよ? たまには一人きりはやめてさ。少なくとも俺は、絶対話は聞くから」



 その瞬間、夕平の肩に柔らかい物が乗っかった。

 ターピーくんの手だ。ばっと振り返る。何時の間に距離を詰めたのか、夕平が思ったよりもお互いが近かった。


『それって、どういう意味?』


 ケータイの画面は、そう尋ねていた。


「へ? い、意味? 意味って……」

「…………」


 いきなりの事でテンパる夕平。一体何が彼女の琴線に触れたのか、夕平はまるで分からない。恐らく、誰も理解できないだろう。

 だが、桜季は何も言わなかった。

 まばたき一つせず自分を見つめて、怒っている……かのようにさえ、夕平には見えた。


「いや、特に意味なんて……ただ、先輩って相川と似てる気がしたんだ。誰かを頼ろうとしないっていうか。抱え込んでる秘密がある、っていうか。俺と話して少しでもそれが軽くなればなー……なんつって。お節介だよな、こんなもん」

「…………」

「ああいや、別に本当、何も意味は無くて。その……な?」


 しばしの沈黙。桜季の深い熟考の雰囲気を、肌で感じ取っていた。


 遠くの方で、フィナーレとなるミュージカルの音楽が木霊している。それと同時に、もう間もなく、遊園地自体の営業時間の終了が迫っていた。


 やがて、キグルミの手で一体どうやってるのか分からないくらいの精密な動作で、ケータイに文字を打ち出した。


『キミは面白い子だね、夕平くん。相川くんの気持ちが、少しわかった気がする』

「へっ?」


 さらに下へ画面をスクロールさせる。


『またこういう事があったら私も混ぜてね。絶対に行くから』

「え、あ……おう、分かった。先輩の事もまた誘うぜ。今度は、こんな影からこっそりじゃなくて堂々とな」


 夕平がそれだけ言うと、桜季はすっとそばから離れ、この場を後にしていった。


「……何だったんだ? まあ、いっか」


 少し、夕平にはその後ろ姿が気がかりだった。


「おい、夕平!」


 すると、桜季の姿が見えなくなった途端、間髪入れずに自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 桜季が去って行った方向とはほぼ真逆、その声の方向から、入れ替わるようにして見知った姿が駆けて来た。


「お、おお。相川か……」

「相川か、じゃねえよ。探したぞ」

「うっ……そうだよな、すまん」


 今回、全てがこっちの非である以上、拓二の言葉に何も言い返せない。


「……ってか来てみたら桜季の奴と一緒だったからクソ驚いたっての。もうちょっとで飛び出すとこだった……」

「え? なんだって?」

「何でもねえよ。あとその切り返しは止めろ。やけにムカつく」


 そう言って、拓二は何かを夕平に投げつける。


「っとと」


 少しくたびれた感じの茶色いポーチバッグだった。中には、いつも使っている財布やケータイが入っている。確かにこれは、夕平の荷物だ。


「おお、俺の荷物! サンキューな!」

「どーいたしまして。とっとと二人のとこに戻るぞ」

「ああ、そうだな……ん?」


 夕平がケータイの履歴を覗き、拓二や暁からの不在着信を確かめていた時。


『ありがとう』


 千夜川桜季の名前で、たったその一文だけのメールが一通、届いていた。


「どうした?」

「……いや、何でもない」


 しばらくその画面を眺めた後、首をかしげながらケータイをポケットにしまい込んだ。


「それよりも、今日はすまんかった。パレード、結局あんまり楽しめられなくて」

「あん? 別にいいって。普通に楽しかったし、気にすんなよ」


 腰を折って、誠心誠意、謝罪の意を見せる夕平。

 軽く笑ってこの話題を流そうとする拓二だったが、それでも引かない。矜持にかけて、今日は引くわけにいかなかった。


「……いや、やっぱりこのままじゃ俺の気が済まん! 何か代わりになる事ってないか!? 今なら裸で逆立ちして遊園地一周してきてもいいぞ!」

「誰得なんだよそれ……」

「いいからほら! 何でも言ってくれよ!」

「……ほう、何でも?」


 その言葉に反応して、じろり、と見定めるような目つきで夕平を見た。


「今、何でもって言ったよな? お前それどっかの組の鉄砲玉に言ったら偉い事になるぜ?」

「あ、やっぱりそこそこお手柔らかに……」

「ふむ。お前にそこまで言われたら仕方ないよなあ、じゃあ……」

「ひいっ!?」


 拓二の命令を想像して、情けない悲鳴を上げる夕平。 

 そんな彼に、ピンと人差し指を立ててやる。焦らすようにもったいぶった間を取って、ゆっくりと拓二はこう言った。


「これからファミレスに寄って、俺に飯を奢ってくれ。いいだろ?」

「へっ……?」


 拍子抜けのあまり、肩からずっこけそうになる夕平。

 思わず、その顔色を伺った。


 そこにはまるでイタズラ好きな子供が、イタズラに成功した時のような笑みが浮かんでいた。


 ────それは文句なしの、拓二の楽しげな笑顔だった。


「別に、そんな高いモン頼む気は無いし。とにかく腹減ったし、量さえありゃ何でもいいからさ」

「…………」


 そんな拓二の笑顔を見て、夕平は思う。


「どうだ? 夕平」

「……よっしゃ! 了解! 任せろ相川、好きなモンおごってやんよ!」


 ────デートは散々な結果だったけど、それでも、目的の一つは達成できたのかもな、と。


 そして彼ら二人が、今までほっぽってしまった女子二人の元へ戻った後、

 夕平は即座に暁達二人に滑り込み土下座を敢行し、

 暁がその頭を出来るだけ軽く踏みつけ、

 拓二がそれを愉快そうに笑い、

 祈がじいっとその様を眺めていた。


 それからしばらくして。

 すっかり夜も更け、後には電池切れのおもちゃのように照明が落ちて閑散とした遊園地が残される。


 それでもなお、遊園地のことなど知ったことじゃないと言わんばかりに、彼らの賑やかなお祭り騒ぎは続いた。

 会話に花を咲かせ、大いに笑い合った。傍から見れば、四人がまるで旧知の仲のように見えたことだろう。


 何時までも、何時までも。今までの分を取り返し、帳消しにするように。


 完全に家路に着くまで、その日はずっと、彼らの楽しげな声は途切れる事がなかった。



 ────そして、この日を境に。


 相川拓二は、彼ら三人の前から姿を消した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る