第二十七話:アドバイザー
グレイシーに連れられ、『そこ』に着いた時には、既に深夜の二時に達しようとしていた。
イギリスの夜はあまりにも静かで、とても先程まであった色々が本当のことと首をかしげたくなるくらいだった。
が、思い出させるように、腹の傷が疼いた。あれから、グレイシーにも手伝って貰って、ちゃんとした包帯で傷口を縛ってはいるが。
『ここは……』
その場所は、見覚えのある場所だった。
それもそのはず、つい昨日来たばかりだからだったからだ。
『一時的な緊急避難場所として、ボルドマンさん直々にフリークチームへと指示なさったのですよ』
『はあ、なるほどな……それがここ、か』
そう、ボルドマンのプライベート用住居だ。
一昨日(改めて思い返すと、濃い数日間だ)、エレンを連れて行った時はそれどころじゃなくてしっかりと見ていなかったが、こうして改めてここを訪れてみると、至って平々凡々な一軒家だ。あまり使っていないとはいえ、とてもマフィアグループ内での超大物が暮らしているようなところには見えない。
『途中からまさかとは思ってたけどさ……』
だが確かに、逆に言えばここは安全な隠れ家――――秘密基地といってもいいかもしれない――――として、十分な機能を発揮することが出来るだろう。まさかボルドマン自身、ここまで考えた上でこの家を建てたわけではないだろうが。
『この処置に対する懸念事項は一切ありません。曰く、「我が家族を家に招くことに、一体何を後ろ暗く思う所があるのかね?」と』
『……面の皮が厚いというか、なんというか、だな。本当に大したタマだよ、アンタらの頭目は』
しかし、元はと言えばボルドマン自身が一般人を装うための施設であるはずなのに、これでは本末転倒じゃないか。
もっとも、今がそれだけの緊急事態であるということの裏返しであるとも取れるが。状況は、考えている以上に逼迫しているのだろう。
『実は私も、何度かボルドマンさんにこのお家にお招きされたことがあります。……もう五年も前からでしょうか』
『へえ、そうなのか』
『はい。その頃には、今のようなボルドマンさんの秘書という地位をいただいていたものですから。それから、マクシミリアンとも家族ぐるみのお付き合いをさせていただいて』
『……アンタ、実は相当凄い人なんじゃ? それって』
先程からボルドマンのことをさん付けで呼んだりと、やけに親しげな口振りで口にしていたが、秘書だったのか。マクシミリアンで言うジェウロと似たようなものか。……その奴は、今日をもってマクシミリアンを裏切ったわけだが。
というか、今から五年前に既にボルドマンと懇意にしているのなら、グレイシー自体は一体幾つなんだ? 見た感じレッジと同じくらい……二十代くらいだと考えていたのだが。今ので彼女の年齢がさっぱり分からなくなった。
『そうでしょう凄いでしょう。さあ、私の恐ろしさが分かったのなら、恐れおののくがいいです』
『え? あ、おう……確かに凄いけど、急におののけって言われても』
『失礼、ただのジョークです』
な、何だこいつ……。
『秘書と言えば聞こえはいいですが、要は昇格することのない雑用職ですよ。出世とは無縁の、窓際族のようなものです』
『は、はあ……』
窓際族なんて物悲しい単語をこんな場所でまで聞こうとは。
マフィアの世界もなかなか世知辛いもののようだ。
『話が過ぎましたね。既に中にフリークチームの方々が集まっていると思うので、行きましょうか』
そう言うと、おもむろに備え付けのドアチャイムの押した。
しばらくの間の後、応対用のマイクから声が返ってきた。
『おーおう、これはこれは! 誰かと思えばボルドマンの野郎のペットちゃんじゃねえの。ヒッヒヒ!』
聞き覚えのない声だった。あたかもカエルが人語を話した時のような、酷くしゃがれた男の声。
俺でさえ、どうにも耳の奥がざわざわするというか、人を容易く不快に出来る声だと思った。もっとも、続く彼の言葉の内容がどうにもゲスイからそう考えるのかもしれないが。
『お酒でも飲まれているのですか? 酒ヤニの酷いその口臭がここまで臭ってきますね。それに、私とボルドマンさんはそのような関係にありませんが。ジャッカル』
流石にこれにはムッときたのか、眉を顰め、冷たく言い放つようにそう告げる。俺と話していた時との差が、確かに伝わった。
それを見て俺は、掴みどころがない女だと今まで思っていたが、ちゃんと人並みに気分を害することもあるのかと、変な納得をしたりしていた。
『きっひひひぃー、どーだかなあ? 手にした栄光も今や昔、隠居して暇になったジジイの慰みモンになってるってもっぱらの噂だぜ、アンタ』
ひっひっひ、という彼の笑い声が向こうからこぼれる。
グレイシーのボルドマンに対する親しげな気持ちとは違う、軽口のような口振りの裏に、いっそボルドマンへの悪意すら感じ取れた。
『なあ、そこんどこどーなのよ? ご意見は? 秘書様よぉ?』
『……別に、ボルドマンさんのご厚意をそのように考えている人間がいるのなら、それでいいです。私にはどうでいいことですし』
『なんだい、つめてえ女だねぇ。ったくそんなだから――――』
『ですが』
それまでの会話の流れ――――言うなれば、ジャッカルという男の会話のペースを断ち切るように、グレイシーは続けた。
『そんなホラを吹聴して回ることは、彼への冒涜そのものです。彼に恩義を持つ者の前では――――発言は控えた方がよろしいかと』
『…………』
『長生き、しませんよ?』
インターフォンに向けてぐいと口を近付け、吐息を向こう側にぶつけるかのように、意味ありげに囁きかけた。
すると、向こうからため息混じりにこんな調子の言葉が返ってきた。
『……けっ、あーあ、マジになりやがって。ジョークだっつの、ジョーク。そんなことも分かんねえ女は嫌いだぜ、俺ぁよ』
『それは失礼を。……アイカワ・タクジさんをお連れしました。入れていただけますか』
『けっ……興ざめついでに、合言葉だ。分かってんな?』
『ええ、どうぞ』
合言葉? また随分と古典的なやり方だな。
『……これはお互いの見解を示し合わせるわけではありません。合言葉というよりは、「合わせ言葉」と言ったところですね。相手の望む返しの言葉を、こちらが即興で答えるもので、要は形だけですよ』
思った事を顔に出してグレイシーを見ると、彼女は俺の様子に気づいたようで、そのように説明してくれた。
『そんなんで大丈夫なのか……?』
しかしそれだと、結局相手のさじ加減次第で、合言葉の意味が無い気がするが。
そう思っていたが、彼女の返答を聞いて、すぐに思い直した。
『まあ一種のカマ掛けとして使えますかね。それに、合言葉だって悪用されればそれまでですから』
なるほど。
つまりこの合言葉の形式――――グレイシー曰く『合わせ言葉』は、合言葉とは別のメリットが存在する。それも大きく分けて、二つ。
一つは、先の通りカマ掛けとしての利点。つまり無理矢理例えてしまえば、相手が『そんな合言葉は無い』と返すとそいつは怪しい、ってな具合だ。そりゃ、もともと無い物を改めて無いと答えるのはこの問答の意に反している。
そしてもう一つは、例えその答えが納得できるものだったからと言って、相手への疑心が百パーセント晴れないというところにある。決められた言葉が合っていただけで満足していては、裏をかかれるかもしれない。決まった答えが無いからこそ、心理的警戒はそのまま継続させることが出来るのだ。
相手への信用と疑心を、公平に保持できる方法。
ザルそうに見えて、実はそれなりの考えあっての物なのか。
『にしたって難しくないか? 相手の望む答えなんて、なかなか言い当てられないもんなんじゃ……』
『大丈夫ですよ』
なんせ、相手の事をよくわかってないと出来ないような事だ。いくら仕事の同僚と言ったって、フリークチームに所属していないグレイシーが答えられるものなのだろうか。
そんな俺の懸念を見透かしたかのように、彼女は平然と答える。
『特にフリークチーム相手には、そんな事はノープロブレムです。揃ってアクが強い方ばかりですから……』
『なにこそこそ話してんだ。なぁに、そう言うほど難しかねぇよ、ひひ。ひっく』
酩酊した声が続いた。
だがその次の言葉は、場違いな程不可解な内容だった。
『使い切る寸前のボディソープの色を、男と女、両方に説明してみせな。わかりやすーく、な』
『はあ? ボディソープって……?』
俺達が何の会話をしているのか、一瞬分からなくなりそうだった。
『…………』
グレイシーの方を見る。
彼女は、思案気に顔を伏せ、顎に人差し指を当てる。
ボディソープ……普通に白色のものを想像していたが、違うのか。というか少しお題が曖昧すぎて、どうしていいのか分からない。
ただ、分かりやすくということだから、何か例を挙げればいいのだろうか? 男と女……それがヒントなのか?
というか、これもはやただのクイズなんじゃ、というツッコミはやはり野暮なのだろうか。
やはり難しいのでは、と思ったその時だった。
『へっへっへ、な? 簡単だろ? 優等生の子猫ちゃん?』
『ええ、まあ』
「え? マジで?」
あれ、この二人はこれでもう通じているのか。 流石というかなんというか。
『貴方は純真なのですね』
何故か、グレイシーにそんな事を言われた。なんか、心なしかほっこりした目で見られているような気がする。
『答えは、「creamのような色」ですよね? ジャッカル』
そして、彼女はポツリと呟くようにそう言った。
嬉しそうな声が、向こうから聞こえてくる。
『ひひっ、ひぃーっひっひっ! せぇかーい! どうよこれ? シャレが利いてると思わねーか? 今日みたいなフザケた夜にゃ丁度いい、ひっく』
『……相変わらずですね、貴方は。私にこんなことを言わせて、何になると?』
『俺が楽しい。――――そんだけだあ、ギひひィ!』
グレイシーがため息を溢すと、ジャッカルは下品に笑った。
『今日の俺は上機嫌ちゃんだからなあー。ま、こんくらいにしといてやんよ。入んな。……おーい、誰か外開けてやれよ! ひっく!』
もはやインターフォンを通さずとも、家の中からその怒号が聞こえる。
『やれやれ……』
『……あのさ』
肩をすくめるグレイシーに、俺は尋ねる。
『さっきの答え、何でクリームのような色なんだ?』
『……それは』
すると、何故か彼女は照れたように小さく身をよじった。
『creamの意味は……乳脂の他に、スラングとして、その……』
『……あ』
cream。アイスクリームや乳といった意味だけじゃなく……『〇液』という意味があったりなかったり。
そのことを知らなかったわけじゃない。
もともとの語源にある『cream-pie』でパイ生地から出るクリームという連想から……その、なんだ。言ってしまえば、膣内〇精という意味がある。
creamのスラング的意味はそこから来る派生語なのだろうが、creampieの印象が強すぎて、すっかり忘れてしまっていた。
男と女の象徴……〇液と乳。ボディソープがどちらとも似た色をしているということか。
なるほど、ただのセクハラじゃないか。
『い、いつもこんなこと言ってるわけでは……ありませんよ?』
『あ、ああ……』
『…………』
「…………」
『……精〇を命の始まり、乳をその種の成長と考えれば、これは生命の神秘を題目とした崇高な論議だったとも――――』
『絶対ねえよ』
何かいたたまれない空気の中、俺達は家の中に入った。
何故
◆◆◆
『ギル! ギルぅ!』
家に入ると、待ち構えていたように、一人の少女が飛び込んできた。
その綺麗な金髪から、その妹の方の姿と一瞬見間違えた。が、グレイシーが難なく少女の身体を受け止めた時には、その幻視を思い直した。
やはり、姉妹は似るものなのだろう。
少女――――メリーは、今にも泣きそうな震え声で言いながら、ぎゅっとグレイシーを抱きしめた。
『よかった、今は一番にアナタに会いたかったわ!』
それに応じるようにグレイシーも両腕を背中に回し、気を落ち着かせようとさするように優しく、柔らかく抱きしめ返す。
『……私もよ。会いたかった。よかったわ、メリーが無事で』
『でもっ、でもあの子が……エレンがっ……!』
『落ち着いて、メリー。怖かったわね。大丈夫よ、大丈夫……』
比べるのもアレだが、彼女のその様子は、先程ジャッカルを相手にしていた時や俺と話していた時とは全然別人のようだった。
さっきはあまり気にしていなかったが、かねてからマクシミリアンと家族ぐるみで親しくしていたと言っていた。
なるほど、こうしてメリーを一生懸命あやしているところを見ると、まるでメリーの実の姉であるかのようだった。
前もって全く何も知らなければ、本当にそう見紛えていたことだろう。おそらく、俺が知らない二人の付き合いがあるに違いない。
『メリー、メリー。貴方の身の上は、もう聞かされてる?』
『う、うん』
『……そう。ついに知っちゃったのね』
『でも……信じられない。私が……マフィアの人間だなんて、急に、そんなこと言われても……』
どうやら、メリーは自分の本当の素性を全て知ったらしい。
当然か。こうなれば、もう隠し通すことは出来ない。
『ごめんなさい、メリー。今まで黙ってて』
『私、これからどうすれば……?』
『そうね、今はまだ信じられなくてもいいわ。その事は、後でゆっくり、ゆっくり理解すればいいの。きっと、時間が解決してくれる。……今はそれより、大事なことがあるから。分かるわよね?』
『うん、分かってる。……エレン……』
『そうよ。メリー、貴方は強い子、とっても強い子よ。だから大丈夫』
『うん。……ありがとう、もういいよ。少し落ち着いたから』
メリーは、それで落ち着いたのか、そっとグレイシーから身を離した。泣いていたのだろうか、少し、その目元が赤くなっていた。
『ん? ……アンタ、いたの?』
すると、そこで初めて俺の存在に気付いたようで、露骨に怪訝な表情を浮かべてきた。
『ああ……さっきからずっと』
『っ! み、見んな!』
そしてすぐに、自分の顔をそっぽを向いた。何とも今更な反応だが、ぐしぐしと目元をこすり、鼻をすする音が聞こえて、必死に俺に泣き顔を隠そうとしているのが分かった。
『メリー、知ってると思うけど、こちらはアイカワ・タクジさん。これからの私達の助けになる人よ』
そんな彼女の背に、グレイシーがそのように話し掛けた。
が、そんな事こいつがあっさり飲み込むわけがない。
『は、はあっ? こいつが?』
案の定、メリーが素っ頓狂な声を上げた。すぐに俺達の方へ向き直る。
泣いた後でまだ気持ちが高ぶり、喉の奥が震えてひっくり返りそうな声だった。
その一方で、とても信じられない、といった不審げな感情がありありと込められた視線を向けてきた。
『……一体こいつが何の役に立つっての? 私より年下のガキのくせに、マフィアなんてもんをどうこう出来るわけないじゃん』
がりがりと苛立たしげに頭を掻くメリー。どうも俺の存在は、メリーをかなり不機嫌にさせてしまったようだ。
つい先程、あまりに色々な話を聞かされたはずの彼女の身の上を考えると、彼女から見る俺はぬくぬくと生きてきた一般人であり、自分との温度差を冷静にいなせる程の余裕が無いのだろう。
『ギル。ギルはそこんとこどう思ってんのよ?』
『……私は、アイカワさんはお嬢様を誘拐犯から救い出すカギになると考えてるわ』
ちらり、と俺の方を見た。
『……ですよね?』
いや、そう訊かれても。
『止めてよ、冗談はもう聞き飽きたっつの。……主にジャッカルのせいだけどね』
その様子に、これ見よがしに呆れたような大きなため息を吐いた。
……まあ、俺の評価が低い件はこの際構わないとして。
『……ジャッカルってのは、そんな冗談好きなのか?』
グレイシーといい、そいつへの女性陣の態度が軒並み硬いんだが。
すると、メリーから大きな反応が返ってきた。
『しょうがないでしょ!? あいつ、私がオーナーさんからいろいろ話聞かされて、エレンが危険だって時にも何度も水を差して茶化してくるんだもん!』
『お、おう。そっか』
『あいつ……次会う時は骨だとか、私の目の前で十字切ったりしてきて……!』
メリーの目に、また光るものが滲む。
……流石にそれはゲスイな。誰もがちらりと思っても仕方ないこととはいえ、ちょっと度が過ぎている。流石の俺も気に食わないと思った。
『……大丈夫だ、エレンは救う。何が何でもな』
『簡単に言って! だったら! エレンを助けられるってんなら、今すぐここに連れてこいっ!!』
感情的に吠えるメリーの言うことは割ともっともだ。
俺は一度失敗した身だ。助けると簡単に言える立場に俺はない。
『――――ああ。エレンを助けるために、俺はここに来た』
でも。
だから、ここに来た。
『フリーク達に話がある。今どこにいる?』
◆◆◆
時計の針が、物静かに時を刻む。時刻は、午前三時前。
まるでボディービルダーの如く、筋肉質を全身に鎧のように纏ったかのような男は、顔を手で覆い、さめざめと泣いていた。
そしてその横で、空の酒瓶を大事そうに抱えたまま、ソファに沈み込んで眠っている醜男。彼ら二人とは、これが初対面だった。
起きて話は聞いているものの、まるで意に関せずとばかりに、小型のサバイバルナイフを手の中で転がして弄っている赤毛の女――――ミランダは、この場で唯一の顔見知りかもしれない。
最後に外見上、この場において最も異質な者――――明らかに小さな子供、間違いなくエレンよりも歳の若い女の子が、何故か腰かけた俺の膝元に座ってにこにこと笑っていた。
このリビングに集まったのは、俺とグレイシー、そしてこのフリークチームのメンバーの四人。
俺の話を聞いた彼らは、それぞれ三者三様の反応を見せていた。
『……これが、俺の知る全部だ』
俺は、事の全てを話した。
『the workplace』から株主総会にレッジと共に出向いたこと。その理由と世界大恐慌のこと。発信機のこと。
そして、そこに現れたジェウロのこと。レッジの死を聞かされ、奴との一騎打ちで何とか逃げ出した後に、エレンを乗せた車を見るもまんまと逃げられたこと。それからグレイシーと出会い、ここに来たこと。
これまでのいきさつを全部語る前に、ガチムチ男はレッジのくだり辺りで泣き出してそのままなのだった。
「俺、こいつ殺すべきだと思うんだけど?」
ミランダ――――いや、これは違う。聞き覚えのある日本人男性の声。
彼女の人格の一つ、俺にナイフを突き立ててきたコウタロウだ。
「聞いてりゃ全部失敗続きだし、何も出来てねえ。いいとこなしのハーレムもの主人公かよ。その上俺TUEEEEにもならないんじゃ、淘汰されてしかるべきじゃね」
「……お前の言ってることは、正直よく分からんが」
初対面の時から思ってたが、こいつかなりのオタ……いや、今はそれどころじゃないし、言及は控えておこう。
「だが、お前らの気持ちは分かってる。俺はてんで役に立てなかった。お前らのリーダーも、エレンも、どっちも俺の手から離れちまった」
今や俺達は、絶望的窮地に立たされている。
その一端に、俺が関わっているのは間違いなかった。小学校のように努力が実らずとも認められるようには世の中上手くはできていない。努力なんざ、結果よりも優劣としてはるかに劣る。
「分かってんならさあ、何とかしろよリア充。俺達にそれ話してどうすんだよ。泣きついて力借りようってか。はっ! ここを幼稚園か何かと勘違いしてんのか? マフィア舐めるなし」
「……泣く」
ぽつり、と俺の膝を椅子代わりにする女の子が呟いた。そして、またにっこりと子供らしく笑った。
俺は、コウタロウの言うことに何も言い返せなかった。つい納得してしまっていた。
――――が、それでもこれで終わるわけにはいかない。
まだ、伝えてないことがある。
「……すごすご帰って来た俺を、許してくれとは言わない。だが、許してくれないと、次の話が出来ない」
「次の話?」
コウタロウの問いに、俺はこう答えた。
その俺の言葉は、この場の全員の目付きを一変させるものだった。
「ああ――――これからエレンを救う手段、救うことが出来る可能性についてだ」
――――そう、俺はこのためにここに来た。
段々と気付いてきた。これが、俺の役割だったのだ。
マクシミリアンが俺をここに寄こした理由が、何となく分かってきた。
俺の役目は、『
レッジが生んでくれたこのか細いチャンスを、一筋の光明が射す道として彼らフリークチームに伝えるために、ここに来た。
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