さくら
第3の男
第1話
女の子が落ちてきた。
みかん色が強く射す秋の夕方のことだった。ひんやりとする木々のカバーがいつもより頼もしく感じられた。
「イタイッ。」
透明で鈴のような声が響く。つい、自分の「痛い」を忘れてしまっていた。その女の子から出たイタイはどこか僕の世界の痛いとは成分が違う気がしたから。
彼女との邂逅は今でも僕の脳裏に焦げついて、貼り付いている。
前日に少女漫画を読んだせいか、その子を反射的にお姫様抱っこで受け止めようとした。だけど案の定、両手だけで衝撃を受けきれなかった僕は見事に尻餅をついた。
「ゴメンね」
地べたに座る僕の腕の中から彼女はピョイと跳び、可愛らしくくるっと向き直ると、ペコりっと謝ってきた。小動物。足元で跳ねた土さえ可愛いかった。
ぼーっと見蕩れていた僕の脳に彼女のごめんねが染み込んでいく。
「おーい」
鼓膜をブブっと震えるのを感じてはっとする。
「ああ、すみません」
「なんでなんで、謝るのー」
彼女は首を18度傾けて聞いた。
「受け止めきれなかったからです」
お尻についた泥を払いながら立ち上がると、改めて彼女の背の低さが目立った。肩まで届かない髪と丸い目、丸い鼻、丸い口。その全てが彼女の幼さを助長させていた。
「明日もくるのー」
彼女は首を36度傾けて聞いた。赤茶色の髪が揺れる。僕は素早く顔を縦に2回振った。
「おれいするね」
彼女はまたペコりっとお辞儀をして、去っていった。蜃気楼で徐々に霞んでいく後ろ姿を眺めながら、火照った顔を扇いだ。
さくら 第3の男 @lowgreen721
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