先生と金魚(4)

「坂本!」

「…センセーから話しかけてくるって珍しいですね。どうしたんです?」

「あの二人は別れたのか」

「いきなりぶっとんだ話をしてきましたね、センセー。一瞬誰のことを言っているのか分かりませんでしたけど。亘先輩たちのことですよね」

「最近、渡辺が出席しないって担任の山本先生が言ってたんだ、それで」

「なるほど」


 教師にも知れ渡っているあの二人の関係。


「喧嘩をしたのか?」

「――ちょうど彼氏さんがいるので、どうぞ。…亘せんぱーい!」


 向こうからやってくる亘に孝太郎は声をかける。

 すると、不思議そうな顔をして小走りにやってきた。


「どうしたの、孝太郎君。それに佐藤先生も」

「渡辺のこと、嫌いになったのか」

「…え?」

「先生の間でも話題になっているらしいですよ。先輩たちの話」

「うそ~!」


 亘はその場にしゃがみ込み、近くの壁に寄りかかった。


「渡辺、最近出席していないみたいじゃないか。担任の先生が嘆いていたぞ」

「…先生には悪いと思っていますけど、僕は当分、彼女とは関わりたくないというか、その。顔を見たくないんです」

「嫌いになったからか?」

「そうじゃないんです!」


 彼のその否定する声は、二人が今まで聞いてきた中で一番大きかった。

 立ち上がり、顔を真っ赤にしている彼は、いつもの気弱な性格から想像つかなかった。


「彼女といると、どうしていいか分からなくなるんです」

「……」

「……後悔する前に謝った方がいい」

「僕は彼女に好かれてなんていませんよ。一年程付き合いましたが、いつも怒られてばかりです。自分に自信が持てなくなりました」

「……」

「これ、渡辺に渡してやれ。先週分のプリントだ」

「……遼太郎くんにお願いすればいいじゃないですか」

「お前が、行け」

「……」


 佐藤は、持っていたプリントを押し付け、次の授業があるクラスへと向かった。

 孝太郎も後ろ髪引かれながら彼のあとについて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る