先生と金魚(2)

 昼休み、坂本は食堂から教室へ戻る途中の廊下で、佐藤先生を見つけた。

 何やら真剣な表情で中庭を見下ろしているようだ。

「サトーセンセー、何見てるんです?」

 先生はこちらを見ずに、「ああ」と小さく口を開いた。

「あの二人は…」

 坂本もその方向に目を向けてみれば、不良先輩とワンコな先輩が昼食をとっていた。

「……二年の先輩方ですね。有名ですよ」

「付き合ってる…のか…?」

「まあ、みたいですね」

「彼氏の方が、いじめられているように見えるのは、俺だけか…?」

「いえ、全生徒がそう見えているので、先生は正常ですよ」

「……」

 少し不満げだったが、その二人から視線を外して坂本と向き直った。

「坂本だったか」

「誰だと思ったんですか…」

「お前とは放課後ぐらいしか会わないからな。昼に会うのは珍しい」

「……現文とかの授業で会うじゃないですか」

「面と向かって話すのが、だよ。それにしてもお前、いつも一人だな」

「別にぼっちくんじゃないですよ。さっきまで友達と食堂で食べてたんですけど、一人の友達が恋愛相談し始めたんで逃げてきましたー」

「なんだ、付き合ってやればいいじゃないか」

「やですよ…。あいつ女々しすぎて付き合ってらんないんですもん。なんで、エスパー君に任せてきました」

「エスパーくん…?」

「一年一組の遠藤渚えんどうなぎさ君です。知りません?」

「――ああ、あのメガネをかけている彼ね。妙に察するのが上手いよな。全部言う前に分かるんだから。頭の回転が速いのか?」

「だと思います。おかげで話のテンポが速いので、そういうときは助かります。……最近は恐怖も感じてきていますけど」

「まあ、友達は大事にしろよ」

「頑張ります…」

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