純情乙女の男子模様

「で、今日のクルミパンは」

「ごめん、購買のはもうほとんど売り切れてて…」

 相も変わらず、人目も気にせずに騒ぐカップルを後ろに、癖の強い黒髪男子は友達と一緒に食堂へ向かっていた。

「なあ、ヨウ」

「んだよ」

「購買部、まだパンとかいっぱいあるぜ?」

「……だから?」

「あの彼氏さん、勇者だよな…」

「まあ、変なところで大胆だよな」

 昼休み始まって十分。購買部の方では未だに戦争が続いていた。

 食堂に着き、癖の強い黒髪男子は醤油ラーメンを。メガネ男子は海老フライ定食を注文した。

「今日は醤油なのか?」

「うん」

「好きだよな、ラーメン」

「これ以上好きな食べ物は思いつかないよ」

「では桜井さんもそのぐらい好き、と」

「茶化すな」

「テヘペロー」

 二人は開いている中央のテーブルに一つ分席を開けてお互いに向かい合って座った。

「いただきー」

「ます」

 しばらく無言で食べ進めていた二人だったが、ふと、半分くらい食べ進めていた黒髪男子が口を開いた。

「なあ」

「ん?」

「“マイスタ”って知ってるか」

「“マイナススタート”ってアニメの略称だろ、有名だぞ」

「あいつにさ、言われたんだよ」

「何を…ああ、あれだろ。もっと早く言えよ的なことだろ」

「なんで分かんだよ、エスパー」

「桜井さんとは中学から一緒だって言っただろ」

「だっけか」

 そう言いながら食べ進める。

「…んでさ、そう言いながら帰っちまったんだよ、なんでだ?」

「――あれ、結構古いやつじゃん?」

「ん~、そだっけ?」

「オレらが中一のときだから…三・四年くらい前だろ? そのときめっちゃドハマりしてたんだよ、桜井さん」

「へ~」

「今でもそうなら、すごい片想いだと思うな。…でさ、そんときはそんなに有名じゃなくてさ、誰も見ている人がいなくて一人で騒いでたんだよ。まあ、今もそんなに注目されてないけどな」

「俺は結構好きだったけどな、あのアニメ」

「ちなみにどのシーンが?」

「え、えーっと…………ああ! あれ、最終話のエンディング。主人公がヒロインを探すんだよ。でもなかなか見つかんなくって話は終わりで、でもエンドロールの最後で草原で眠るヒロインっぽい人を見つけるんだよ。で、抱きしめてエンド。あれにはちょっとカンドーした」

「桜井さんもそれ言ってたな、今度言ってみ?」

「エスパー遠藤…いや、ゴットエンドー」

「…そのバットエンドみたいなあだ名、やめてくれる?」

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