先生と金魚

「サトーセンセーいますよね?」

「君は暇なのかな、坂本孝太郎さかもとこうたろう君」

 佐藤先生はいつもの時間、よく自身が受け持つ一年二組の教室で、飼育している金魚に餌をやっている。

 それを見ていた隣のクラスの坂本は、いつからか先生の隣で雑談するようになった。今日も坂本は近くの席に座った。

「センセー、知ってます?」

「また金魚の話か?」

「さすがセンセー。…あのですね、金魚って、あくびするらしいですよ」

「……マジか」

「マジです。金魚があくびすると、その環境がとても良いことを表しているんだそうです」

「そうか…」

「ここの金魚はどうですか?」

「餌はよく食うぞ」

「おなか空いてますもんねー。……そういえばセンセー、下の名前ってなんですか?」

「……鉄平だが?」

「てっちゃん?」

「やめなさい」

「もしかして初めて呼ばれました?」

「自己紹介したその日から、女子からそう呼ばれているんだ…」

「それが教師の定めですよ」

「やっぱりそうなのかー…。俺の学生時代も先生をあだ名で呼んでたし…。んー」

「……センセーって、天然ですよね」

「そうなのか? ほかの先生たちにもよく言われるんだ」

 餌やりが終わったのか、佐藤先生は金魚をしばらく眺めていた。

「金魚って、食べれるんですか?」

「…………今は情報化社会になっているな」

「知らないんですね」


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