短編ミルフィーユ

慧 黒須

ヲタク女子の憂鬱

「一目惚れしました! 付き合ってくださいっ」

「却下」

「な、なんでですか…!」

「一目惚れで付き合っていいのは二次元だけよ!」

「え……」

 スポーツ学校として有名な私立高校。そこで一人の男子の恋が終わった。


「またフったのか」

「あたりまえじゃない。あたしの彼氏は緑川君だけよ!」

 放課後の空き教室の窓際の真ん中の席に男女が座っていた。

 ちなみに、あからさまな溜息を吐いている男子は緑川ではない。

 学年別に違う色のネクタイを見ると、緑の縞が少し入ったデザインの二人は一年生だ。

「また変わったのか」

「変わってないわ! 緑川君は恋人。雷神様は旦那ですー」

「めんどくさい。さっさと別れろ」

「むりでーす!」

 彼女はヲタクだと自覚しているが、いつも一つ上の不良先輩と一緒にいるため、やんちゃな人だと周りから思われている。

 ゲーム、漫画、アニメ等に手を出している彼女は旦那と恋人が多い。もちろん、相手は二次元。所謂いわゆるキャラクターだ。

「松林もいるでしょ? カノジョ」

「いないわ」

「アニメ見ないの? ありえないっ、人生の半分…いや、それ以上に損している!」

 松林と呼んだ男子に向かって指をさす。

「お前ほどじゃねーけど見てはいるよ」

「ほうほう、たとえば?」

 その指を払い、椅子を本来の使い方とは逆に座りなおして考える。

「“勇者とあくま”?」

「ちょっとエロいやつね。男子は好きよね。こう、ちょっと見えそうだけど見えないスカートとか、やたら口元とか胸とか強調するアニメ。去年やってたね、それ。私も最初は好きだったの。勇者になって魔王を倒した、から始まって、残党の悪魔ちゃんと出会うんでしょ。オリジナルだけあって、最終的に何をしたかったのか分からない、ただのいちゃつきアニメだった覚えしかないわ」

「まあ」

 彼女は相も変わらず、よく喋るようだ。これに関しては。

「やっぱりハーレムなのね。その監督ってそっち系好きよね。男女が友情? ありえない! っていう人だしね」

「へー」

「あとは?」

「あ、えっと~……“マイナススタート”、とか“アニマルデパート”とか…か?」

「あんた、マイスタ見てたの…」

「え、なに」

「それなら早く言ってよ~!! バカ―――!!!」

 彼女は自身の通学鞄を持ち、走って教室から出て行った。

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