第五章 ~『アンチダンピング税』~
エネロアは口元に笑みを浮かべて、公爵の城を訪れていた。彼女の提案したダンピング作戦により、山田たちに大きな打撃を与えたに違いない。そう確信し、彼女の足取りは軽くなっていた。
「公爵、ここにいたのね♪」
コスコ公国の公爵はいつものように暖炉の前で火に当たっていた。彼の表情は陰鬱でとても勝利を喜んでいるようには見えない。
「何かあったの?」
「城下町全体の税収が下がっている……パンの売り上げもだ……」
「そ、そんなことありえないわ……」
「ありえるのだ。このままでは城下町から人がいなくなる」
「そ、そんな……」
エネロアは自分の立てたダンピング作戦に隙はないと信じていた。商品の値段をただひたすらに下げるだけのシンプルな手法をどのように打ち破れるというのか。
「エスティア王国はアンチダンピング税なるものを導入したのだ」
「はぁ? なにそれ?」
「不当に安価な値段設定がされている商品に対して関税をかけるのだ。これが原因で公国から王国にパンを持ち込む場合、値段が跳ね上がることになる」
山田のダンピング対策は地球で実施されている方法の一つで、他国から運ばれた商品が自国内の商品価格よりも著しく値段が安い場合に、税金をかけて帳尻を取るというものだ。
新都市アリアドネは、公国や魔王領から王国へ向かう道中に立ち寄ることが多い。国境を超えなければならない性質上、関税をかけてしまえば、公国内でどれだけ価格を落とされたとしても、不毛な価格競争を防ぐことができるのだ。
「ひ、卑怯だわ。そんな手法を使うなんてあんまりよ」
「やはりエスティア王国に勝つことは無理だったのだ」
「ま、まだよ。諦めるのは早いわ」
「どうするというのだ?」
「頭脳戦で山田様に勝つのは無理。素直に負けを認めるわ。でもまだ私には暴力がある」
エネロアは山田を倒すためには手段を選んでいられないと気づき、自分の長所である暴力を最大限有効活用できる方法を模索する。
「……パン屋が繁盛している理由は、アリアという女のおかげよ。あの女を連れ去ればいいのよ」
「おおっ!」
「私に任せておきなさい。圧倒的な暴力を見せてあげるわ」
エネロアの自信に満ちた声に、公爵は頼もしさを感じるのだった。
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