第四章 ~『シーザーの破滅』~


「住宅ローンの金利が高くなったらしいぜ」


 頭を抱えるシーザーの耳に道行く人たちの会話が届く。街の人たちのもっぱらの話題は高くなった住宅ローンの金利についてだ。


(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。公定歩合が上がるなんて予想外の事態だ!)


 ブルースによって国から銀行に貸し出す金の利息が引き上げられたことにより、銀行から債務者に貸し出す金の利息も自然と上がっていた。これによりサブプライムローンの利息を払えないモノが続出する事態を引き起こした。


 債務者たちは家を売って借金を返そうとした。しかし家を売ろうとする者が増えれば増えるほどに住宅価格は下がる。すなわち住宅価格のバブルが弾け、暴落したのである。


(俺の考えた必勝理論が崩れるなんて!)


 シーザーは住宅価格が落ちないことを前提とした理論でサブプライムローンを貸し出していた。その幻想が崩れた今、彼の必勝法もまた崩れる。


(ブルース銀行は債務者から貸し剥しを始めたと聞くし、俺も手を打たないとマズイ。いや、俺の場合、すべての借金が俺の借金になる……)


 シーザーの貸し出していたサブプライムローンには、高い金利とするために債務保証がついていた。もし債務者が借金を返せなくなった場合に、住宅を売却さえすれば、借金がチャラになるというものだ。


 暴落した不動産の売却金がシーザーの手元には残るが、それで返しきれない場合の借金はすべてがシーザーの借金へと変わる。彼のこの状況はまさしく経営破綻したリーマ〇ブラザーズと同じ状況で、彼らもまた投資家たちから集めた金をサブプライムローンとして貸し出していたが、住宅価格が暴落したことで債務者の借金を一手に背負う羽目になり、会社を倒産させてしまったのである。



「なぜ俺がこんな目に遭うんだああああっ!」


 シーザーは街道の真ん中で人の目を気にせず叫ぶ。周囲から白い目を向けられながらも彼は叫ぶのをやめられなかった。


「うっ……す、すまない、キルリス……」


 シーザーはここにはいないキルリスに謝罪する。借金を返せなくなった彼の傍に彼女を置いておくのは危険だと判断しての結果だが、大切な妹を救えなかったことと、会いたい気持ちが彼の目尻に涙が浮かばせる。


「シーザーさん、元気を出してください」


 シーザーの肩を優しげに叩く男がいた。恰幅が良く、身形の整っている男は、慈悲に満ちた目をシーザーへと向ける。


「あんたはいったい……まさか俺のことを憐れんで救いの手を……」

「シーザーさん、これ何か分かりますか?」


 男の手に握られていたのは束になった借用書だった。そのすべてがシーザーによって債務保証された借金である。


「シーザーさんは炭鉱と漁船のどちらがお好みですか?」

「天使と思ったら悪魔かよ! どちらもお断りだ!」

「なら男娼という道もありますが」

「う、嘘だろ。俺にそっちの趣味はないぞ……」

「嘘ですよ」

「はぁ?」

「だから冗談です。あなたの買い手はもう決まっていますから」


 男は借用書を捲って、借金奴隷の契約書を示す。その契約書にはシーザーの新しい主人として、エスティア王国の国王である山田の名前が記されていた。


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