第四章 ~『公定歩合の引き上げ』~
ブルースは戦場となっているコスコ公国とエスティア王国の国境に位置する丘陵地帯に顔を出していた。一向に進もうとしない戦況に痺れを切らして様子を伺いに来たのだ。
「将軍、状況はどうだ?」
「駄目ですね……」
「コスコ公国の裏切りは嘘だと分かったはずだぞ」
山田によって流布されたコスコ公国が裏切り、エスティア王国と共に魔王軍に挟撃を仕掛けようとしている噂は、ブルースが軍の配置や補給経路などを調査した結果、嘘だと判明した。
「実は……さらなる噂が……」
「今度はなんだ?」
「エスティア王国が魔王軍に対抗するためにスカイ帝国と手を組んだとの情報が流れました」
「な、なんだと!」
スカイ帝国は魔王領ほどではないが、大きな力を有する大国である。もしエスティア王国がスカイ帝国の後押しを受ければ、勝敗は読めなくなる。
「もしスカイ帝国が敵になったのなら、我らの軍だけでは太刀打ちできません。魔王領全体で戦争をする必要があります」
「……だがその話は十中八九嘘だ」
エスティア王国がスカイ帝国と手を組むのなら、それに見合うだけの対価を差し出す必要がある。その対価の値段は決して安くない。
「支配する人間が魔王領からスカイ帝国に変わるだけで、エスティア王国にとっては実質敗北に等しい」
「ですがエスティア王国の国王はライザック様を倒した男です。我らの予想もできない手段でスカイ帝国の協力を引き出したのかもしれません」
「ぐっ……では調査するしかないのか……どの程度で結果が出せる?」
「数十日頂ければ、調査結果が出ます」
「多少の遅れは諦めるか……だがそこから挽回すれば……」
「ブルース様、スカイ帝国の脅威以外にも問題が……」
「まだあるのか!」
「言葉で聞くより、見た方が早いかと。付いてきてください」
将軍はブルースを案内し、丘陵地帯を見渡せる丘の上へと案内する。そこは遮るモノのない緑一色の光景が本来なら広がっているはずだが、現実が見せたのは、緑を焼くマグマが沸々と地面を焼く景色だった。
「これはいったいなんなのだ?」
「エスティア王国の国王による炎の魔法です」
「ライザックとの戦いで炎の魔法を使ったとは聞いていたがまさかここまでとは……」
ブルースは山田が空を焼くような炎の魔法を使用することを知っていた。その威力は部隊を壊滅するほどの力だと見なして作戦を立てていたが、眼前に広がる惨状はそんな生易しいものではない。まるでマグマが流星となって地上に降ってきたかのような被害である。
「数で押すのは難しいか?」
「……不可能ではありません。ただ進むたびに甚大な被害を出すのを覚悟する必要があります」
「ぐっ……」
「な、なら、魔法を打つために現れた国王を捕らえてはどうだ?」
「それも難しいです……エスティア王国の姫であるアリア様は転移魔法を使えるそうで、国王が炎魔法を放つと、城まで転移して逃げ去るのです」
「八方塞がりか」
ブルースは追い込まれた状況にうめき声を漏らす。だが彼は即座に思考を切り替え、エスティア王国に戦争で勝利した場合に得られる戦果に思いを馳せる。
「……もし部隊が壊滅したとしてもエスティア王国の魔法石が手に入るなら安いものだ」
「ですが……」
「どうした?」
「兵士たちは炎魔法の威力に怯えてしまって、いまいち士気が上がらないのです」
もし戦争になれば大地を焼く炎魔法が自分の身に降り注ぐかもしれない。その恐怖心が兵士たちの間に蔓延し、戦う意欲を減退させていた。
「兵士たちの士気を高めるためにはどうすればいい?」
「武功には報酬で答えるしかないかと」
「そのためには戦費が必要か……だがコスコ公国の連中が金を渋り始めたのだ」
魔王領とコスコ公国は和平条約を結んではいるが、あくまで不可侵条約であり、同盟を結んでいるわけではない。
故に魔王領が戦争で勝利しようとも、コスコ公国の手にする魔法石はない。金を出し渋るのも当然の反応だった。
「やはり魔王様の力をお借りするしか……」
「それは駄目だ……他に何か金を得る手段が……」
ブルースは金策に頭を悩ませ、何かを思いついたのか、ハッとした表情を浮かべる。
「貧困者の不満を減らすために、家を買いやすくしただろ。あれはどうなったんだ?」
「上手くいったみたいですよ。なんでもサブプライムローンとやらで大勢の者が家を手に入れたとか」
「ならそろそろ税金を上げても」
「それはまだ早いかと」
「な、なら、公定歩合を上げて、その利息を戦費に充てるのはどうだ!」
公定歩合を上げれば、国が銀行に貸している金の利息が増える。その分貸し出す量は減るが、サブプライムローンのおかげで、金を借りたい需要は大きく落ちないとの見込みだった。
「やはり私は天才だ。これでいこう」
その日。ブルースによって公定歩合の変更が宣言された。不動産バブルがとうとう弾けようとしていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます