第二章 ~『転換社債を利用した買収』~
魔王領にある魔王放送局の本社では緊急会議が開かれていた。親会社である魔王闘技場が買収された場合、自社もエスティア王国ファンドの持ち物になってしまうからだ。
「なんとかしなければ!」
社長であるエドガーが他の役員たちに向かって叫ぶ。彼は頼りにならない部下たちにイラついていた。
「ドレイク、状況を説明しろ!」
副社長のドレイクはビクビクと怯えながら、魔道具の鏡台に現在の状況を映し出す。
「こちらが昨日までの状況です。我々が十パーセント、エスティア王国が四十パーセントの株を保有しています」
「なら過半数はまだなんだな!」
「いいえ、これは昨日までの状況です。本日のデータがこちらになります」
ドレイクがスクリーンを更新する。そこにはエスティア王国が六十パーセントの株を握ったと示すデータが表示されていた。
「なんだこれは! なぜたった一日でこんなにも増える!」
「社長、転換社債です」
転換社債とは株式と交換可能な社債のことを指す。
株価が安い時は利率の高い社債として持っておき、株価が高くなれば株と交換して、売ることができる便利な証券だ。
山田はこの証券の特徴を利用し、一気に転換社債を株券へと変えたのだ。持ち株比率が急上昇するので、防衛側に対策の時間を与えない効果がある。
ちなみにだが転換社債を利用した企業買収は、村〇ファンドが阪〇電鉄株を買った時にも利用された手法である。
「このまま進めば三分の二を買われ、彼らは我々の親会社となります」
「うるさい! まだ方法はある!」
「何か考えがあるのですか?」
「お前、この国がどこかを知っているか?」
ドレイクはエドガーの言わんとしていることを察した。
「暴力で解決するおつもりですか?」
「相手は政府系のファンドだ。従わなければ戦争をすると脅せばいい」
「国王がそのような脅しに屈するとはとても思えませんが……」
「従わないなら我が国に呼び出し、殺してしまえば良い。所詮は小国の国王。消えたところで騒ぐのは王国の連中くらいのものだ」
エドガーはニヤリと笑う。他の役員たちも「買収されるくらいなら」と消極的な肯定の態度を取る。
「お待ちください。国家間の紛争ともなれば解決に時間がかかります。魔法石の採掘国である王国からの供給が止まると、エドガー様の責任問題になる可能性があります」
「ぐっ……ならどうすればよいのだ!?」
「実は……エスティア王国の国王よりある提案を頂いております」
「提案?」
「勝者が互いの株をすべて総取りできる条件でのエドガー様と国王の一対一の決闘です」
「な、なんだとっ!」
エドガーは提案された条件の不合理に驚く。山田が保有する株は六十パーセントを超えており、エドガーはたったの十パーセントしかないからだ。
「国王はなぜこんな提案をしてきた?」
「やはりこちらが戦争を仕掛けてくることを危惧したからではないでしょうか。それと買収後の経営を円滑に進めるためでしょうね」
「なるほど。ありうるかもな」
魔王領は文明的に発展している国ではあるが、それでも腕っ節を尊重する気質が根強い。金だけでなく、武力もエドガーより勝っていることを示せれば従業員は買収後も大人しく従ってくれる。
「エドガー様、この提案、受けない手はありませんよ」
「負ければすべてを失うが、相手は人間。私が負けるはずもないかっ……」
エドガーは勝利を確信して哄笑し、それに付き従う役員たちも社長の勝利を信じて愛想笑いを浮かべる。
だが副社長のドレイクだけはあの男を敵に回してタダで済むはずがないと知っていた。しかしわざわざそのことを口にはせず、内心でほくそ笑む。山田がエドガーを撃退すれば新社長は自分になるし、仮にエドガーが山田を倒したとしても自分は副社長のまま。
どちらに転んでも美味しい展開だと、ドレイクは媚びを売るような笑顔を浮かべるのだった。
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