第4話 混乱
体中に
視界は見慣れない濃淡鮮やかな草で覆い尽くされている。
「…は?!!!」
――草?!草だって?!!
ガバッという音を立てて上半身だけ起き上がると同時に、僕は目の前の光景に絶句した。
――ナ、ナニコレ…ナンデスカココハ…
どうやらここは草原らしい。
鮮やかな緑がすぐに目に入るが、しかし僕の知るような草原とは、何処か違うものを感じた。
淡い緑から濃い緑まで、点描画のように入り乱れている。
形は同じなのに色が違うというのも少し違和感を覚えるが、もっと違和感を覚えたのはそこに散りばめられた花たちだ。
その花は正に幼児が描くそれで、青や桃色の花弁は五つでまんまるに近い。花の中心はコスモスのように黄色く、しかし面積は大きい。そして花自体も普通の花より一回り大きい。
鮮やかすぎる草原から目を話そうと空を見れば、空はまた何処か非日常を感じさせるような透き通った水色をしていて、そこにぷっかりと絵に書いたような雲が浮かんでいる。
日は優しく辺りを包み込み、春の日差しを連想させる。
――いやいやいやいやいやおかしいだろう?!!
おかしい。
だって僕は間違いなく、冬の寒い夜の中にいたんだ。
星が満天に輝いて、全てが闇に飲み込まれる、あの無の夜に………
「…しかも……この格好は何…」
変わってしまったのは風景だけではないらしい。
手を見れば指抜きの黒いグローブ。
腕まくりされている短いジャケットは、くすんだ赤の地に金のラインが入っている。
ミニスカートはジャケットとセットのようで、ひだは無い。
ジャケット自体が短いデザインで、前も開いているため、下のブイネックの黒いシャツが普通に見える。
クロスのベルトになかなか見ない形状のブーツは、RPGゲームに出てくるキャラクターのそれにしか見えない。
しかも腰には――
「これ…本物だよな………」
言いながら装備されていたそれを目の前まで持っていく。
光を反射する真っ黒な短銃は、小さい筈なのにずっしりとした重みを感じた。
慣れない手つきで確認すると、虹色の光沢を発する実弾がきちんと収められている。
――これじゃ本当にゲームの世界みたいじゃないか!!
頭の中は何も考えられず、嫌な感覚が体全体を駆け巡る。
「…ちょっと待とうか」
自分の身に何が起きたのかさえ覚えていないのだ。
混乱するくらい許してほしい。
「………いや、確かにね?」
確かに認める。僕自身が変人であることは――自他共に――とっくの昔に認めているのだ。
…あぁ、認めようじゃないか。
改めて認めろというのなら、何億回だって認めてやる。
そりゃあそうだろう。
女であるのに第一人称は『僕』。
クラスの連中からは完全に距離を置き、常に一人でいることを望む。
同い年の女子と違ってお洒落なんて興味の欠片も持たないし、芸能人なんて大物すら知らない始末。
絵を描き物語を書く上で幼い頃からの空想癖の悪化は止められず、目の前にいない生き物に空想の中で触れて愛でようとしたことだってあった。
人前では無いが心の拠り所として空想上の人物と声に出して会話だってした。ご丁寧にその人物の返答だって僕が声に出していた。
あぁ、変わっているとも。そろそろ皆と生きている世界の次元も違うだろうさ。
傍から見ればただの気違い以外の何者でもないのは解っている。
しかし、だ………
「こんな幻覚を見るほど…現実逃避を極めた覚えはない!!!!!!」
こんな状況下にいきなり置かれて叫ぶだけで正気を保てている僕を誰か褒めてくれ!!
だってそうだろう?
周りは非現実的な要素満載の草原!
服はコスプレと思われたっておかしくないような奇妙なデザイン!!
そして本来なら法律で厳しく罰せられるはずの実弾入りの銃!!!
何なんだ。僕が何をしたっていうんだ。
「…!そういえば…」
今になって思い出した。
――あいつは何処に行った?
周りを見渡しても、僕に手招きをしたあの少年の姿らしきものは欠片すら見えない。
「くそっ!!!一体何なんだよ?!!」
思わず地面を蹴ったその時の僕には、絶望の二文字で視界を埋め尽くされていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます