告げる。終わりを。

あの日以来。


喋りかけられても、すぐに会話を終わらせれるよう努力して。


もちろん自分からなんか話しかけないし、あれだけふざけて書いてた社会のプリントの裏もみんなと変わらないすごく普通な裏にした。


廊下で遠くから歩いてくるのが見えたら、引き戻したり…授業以外で会わないようにする努力もした。


七瀬先生鋭いし、頭良いから…きっと私が避けていること気付いてるけれど。


何も言ってこないし、向こうからは何度も他愛のない話を普通にしてきたりもする。


今の状況をどう思っているのだろう?そう思うばかりだ。


「はぁ…」


「春ちゃん最近どうしたんよ〜!」


「三月ってなんか憂鬱やなぁって」


「別れの季節よなぁ〜、無性に悲しくなるような…」


卒業まであと一週間。


もう…本格的に中学生活の終わりが見えはじめ、公立試験に至ってはあと六日。


受験生の終わりも見えている。


もちろん愛ちゃんと高校は別。私には手の届かない高校に愛ちゃんは受ける。


そして七瀬先生は、この中学校の教師になって短くなくて、そろそろ転出してもおかしくない。


今年、ちょうど三年生の担任だから、来年転出なんだろうな…という気がする。


逢ったら愛おしくなる…だから、七瀬先生が逢えない所に行く方が今の私にはちょうどいいのかもしれない。


「卒業式の予行行こっか」


「うん」


どの教科も中学で終えなければならない範囲というのは終わっているから授業も復習ばっかだし、一日二時間は卒業式の予行練習だ。


最近、ただの日常を過ごしてるだけで、終わりを感じさせられることが多い。


「春先輩。こんにちわー!」


「あ、久しぶり!」


体育館前で会ったのは、同じ楽器パートだった後輩。


「そうえばさっき職員室前で男の先生が春先輩の話してましたよ」


「え?だれ?(笑)」


「なんかスーツ着た長身の先生でしたけど…名前はわからないです(笑)」


「あ…あぁ。その人ね…。その先生、だれと喋ってたん?」


「あ、春先輩の担任やと思います!あの…髪の毛がちょっと…」


「あ〜絶対うちの担任やわ(笑)」


髪の毛が…なんでワードが出てこりゃうちの担任だろう。


そんなことより…何話してたんだろう…


気になるけど、気にしちゃいけないっていうか…いや気にならないっていうか…


どうでもいいどうでもいいと心で語りながらも。


「…ねえねえ、はるはる?」


「ん?なんや?」


結局、予行練習終わりにはるはるに話し掛けてる自分がいた。


「いや、何話してたんかなーみたいな?」


「何話してた?いつの話や」


「ほら。あのー予行練習前に?職員室前で?な、七瀬先生?と?みたいな…」


「あー!聞いてたん?」


「ん、いや後輩から聞いただけ…」


「別に悪口ちゃうで(笑)」


いや教師が生徒の悪口言うわけないだろ…と心の中でつっこむ


「じゃあなんなん(笑)」


「今日で九組での社会の授業終わったらしいけど、九組の社会は彼方がよく笑ってくれて僕も嬉しいんですよーって」


「…え?」


「彼方ってほんといつもいい笑顔してますよね〜とも言っとたわ!良かったなあ!」


肩をポンポンっとして去って行くはるはる。


今、そんなこと思ってくれてたなんて…。


嬉しくて…また前に戻りたくなって。


でも…それは七瀬先生のためにならない…。


もうあとちょっとで別れが来る。そうなれば向こうが忘れてくれるって信じて今我慢するしかないんだ…。


「…っ。」


そうして毎日…夜、枕を濡らした。



「昨日どうやった??上手くいった〜??」


「うーん、まあまあかな(笑)」


一週間…なんてもちろんあっという間で。


昨日公立試験を乗り越え、卒業式を迎えた。


「愛ちゃんはどうやったん?」


「うーん…わからん(笑)」


「まあ、そんなもんよな(笑)」


「でも春ちゃん、試験三教科やったんやろ?いいよなあ〜」


「うん。まあね(笑)」


私が受けた商業高校の試験は、数学・理科・英語のみだった。


ようするに頑張った社会は内申点にしか入らないわけであるが、仕方がない。


「よし」


「なに?」


急に愛ちゃんがよしと気合を入れ込んだと思えば…


「1.会長 愛!2.副会長 春!」


「ちょっと、なに言ってんの(笑)」


「3.べーちゃん!4.愛唄あいか!5.愛咲あいさ!6.志音しおん!」


「いや、ちょっと!(笑)」


「なに?

7.愛珠あいじゅ!8.愛依奈あいな!9.李々愛りりあ!10.愛乃あいの!」


「いや春ファンの会員の名前呼ばんくていいって(笑)」


「だって!今まで出席とかとったことなかったからさ!

11.恋愛れんあ!12.愛保あいほ!13.愛美あいみ!」


私だってもちろん初めに呼ばれた通り〝春ファン〟なわけで。


「14.心愛ここあ!」


ただ…普通じゃない春ファンなことは確かだ。


「15.愛宇あいら!」


まずみんな恋愛対象としての好きという思いを七瀬先生に抱いてるわけじゃなくて…。


「16.愛梨あいり!」


もちろん私みたいに付き合ってる…なんでおかしな話で。特別なことで…。


「17.流愛るな!」


それなのに私は今、自分から七瀬先生を避けてる…。


「18.歌愛らら!」


でもそうしないと…七瀬先生に迷惑かけるかもしれないから…。


「19.涼愛りあ!」


ただ…想い出をいっぱいくれた特別な先生に…なにもせずに終わるのはおかしくないか…?


「20.柚梨愛ゆりあ!」


ちゃんと…感謝伝えないと…もったいない…。


「出席終わり〜〜!」


今日卒業式なのに何ができる?今すぐ何ができる?


「なあ?終わったで?」


なにか…なにか…しないと。


「なあ!!!!」


「おおおっ!」


「終わったで!出席!」


「あ…そうなん(笑)っていうか出席ってうちしか今ここにおらんし(笑)」


「そんなんはいいねん!雰囲気雰囲気!」


「そう(笑)」


「入ってくれたことに感謝して一人一通ずつ手紙でも配ればよかったなあ…」


「別にそんなことせんでも…ああ!!」


「なによお!びくるわアホ!」


手紙…レターセットなんてないけれど、もうこの際ただの紙でもいい。


文字で感謝を記せばいいんだ。

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