5.幕間
失敗した。というよりも、成功する可能性は端からなかったみたいだ。
落胆した気持ちを抱えながら私は葛城に別れを告げて席を後にする。新入生といえども部活の見学に遅れるわけにはいかない。
落胆した気持ちを抱えながら私は葛城に別れを告げて席を後にする。新入生といえども部活の見学に遅れるわけにはいかない。
教室を出ようとして、柄の悪い男子の肘が肩にぶつかる。
「っと、わりぃな」
「気にしないで、桂坂、くん」
関わったらいけない。そう本能が警鐘を鳴らしている。
逃げよう。即座にそう判断して足早に彼の横を通り過ぎようとしたら、「ちょ、ちょっと待てや」と肩を掴まれた。
「な、何?」
「お前、葛城と仲いいのか?」
「えっと……。その、肩、痛いから離して」
「離せば付き合ってくれる?」
「少しだけなら。これから部活あるし」
「オーケーオーケー。逃げんなよ?」
痣ができそうなほど強く握られた肩を擦りながら向き直る。
ゆうに百八十はあろう大柄な体格と、喧嘩と修羅場をかいくぐってきたのか、深い切創傷が残る頬。漫画で見る三白眼の極悪役を彷彿とさせる容姿を前にして、息を飲んだ。
「で、葛城とは仲いいの?」
「……そう、見えた?」
「いんや。ただ、あいつが他人と話してる姿なんざ想像できなくってなぁ。何しろ、小学校の頃のアイツは、名前に違わずクズだったしなぁ」
「私、中学のとき同じ部活だったから。高校でまた陸上やらないのかって誘っただけ」
「ふぅん。で?」
「み、見れば分かるでしょ。私、急いでるから」
「いやいやいやいや、つれないにもほどがあるでしょ。もう少し色々聞かせてよ、葛城のこと。中学時代はどうだったとかさぁ、色々と積もる話があるじゃねぇか」
身を屈め、目線を合わせてくる。吐息から漏れてくる煙草の匂いに咽せてしまう。昔から煙草は苦手だ。
「ごめん、急いでる、から」
振り切るように走り出す。教室を出て、廊下の突き当たりを曲がるまで無心で走った。階段の踊り場まで一気に駆けて、そこでようやく息をつけた。
彼の声も足音も聞こえてこないことに安堵する。何度か言葉をやりとりしただけで、こんなにも心がざわつくだなんて。
「何なのよ、一体……」
小学校が一緒だった。その事実に戦慄を覚える。あの態度と言いぐさ。桂坂が葛城にどんな所業をしてきたのか、容易に想像できてしまえる。
「葛城くん……」
肩に残る鈍い痺れが、不吉な予兆に思えてならなかった。
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