第55話 ロマンティックが止まらない
「なに? ……らせん?」
驚いた顔で隆太を見つめる3人に、先ほどフオンがしてみせたように下から上へと円を描き指をぐるぐる回す。
「これ、螺旋。俺たちは螺旋を持ってる! 身体の中に!!」
「え? どこ?」
自分の身体を見下ろし、フオンは手や腕をひっくりかえしながら螺旋を探している。
「DNAです!!! 俺たちはDNAの二重螺旋の中に太古の記憶を持ってる。ずっと続いてきた生命の記憶を!」
グエン夫妻に真剣な眼差しを向ける隆太は、自分の発見に興奮しているのか 普段よりジェスチャーが大ぶりになっている。
「そのDNAと同じように螺旋を描き、俺たちの魂は成長していく。太古の記憶が刻まれたDNAと同じく、螺旋を描いて。これって、偶然ですか?!」
グエン夫妻は顔を見合わせた。そして同時に笑い出した。
「ああ! リュータだ!! いつものリュータが戻ってきたね!!」
ホアは小さく手を叩き身体を揺らしながら、カイに至っては涙をぬぐいながら笑っている。
フオンには意味がわからなかったらしく(当然だろう)、キョトンとしている。
せっかくの思いつきを散々笑われ憮然としている隆太に、ようやく息を整えたカイが頷く。
(しかし、目尻にはまだ涙が残っていた)
「その考えは、とても面白いよ。もしかしたら、偶然じゃないかもしれないね」
ホアは腕を伸ばし、隆太の肩をポンポンと叩く。
「あのね、リュータ。古代の文書や様々な宗教の ……えー、聖書? キョウテン? そういう本には、いくつか同じことが書いてあります。そのひとつが、『人は ”らせん” の階段を昇って神に近づく』というものなの」
「えっ!! ……それって、まだDNAなんか発見されてない時代の本ですよね?」
「もちろん」
「じゃあ、じゃあ、やっぱり偶然じゃないのかも……」
「うん。 ”らせん” という形をとるのは確かに同じだね。でも、そのことが関係あるかどうかはわからない。偶然かもしれないし、偶然じゃないかもしれない。だって、DNAの中のらせんと違って、魂の成長の ”らせん” は……」
重ねた手を上下させて、垂直方向の幅を表す。
「一周ごとの高さも……幅も、いつも同じではないんじゃないかな。」
「ああ……そうかぁ。確かに」隆太はため息をついた。
そのときの経験や気づきの深さにより、魂の成長の度合いは様々だ。
当然、魂が描く螺旋の幅も高さも変わってくるだろう。
「すごい発見だと思ったんだけどな………」
「でも、リュータのその考えは、とても素敵ね。
DNAの中に、神に近づく魂の螺旋階段を持ってるなんて。とても、ロマンティックだわ」
ホアがニッコリと微笑む。
「そうだね。僕らはね、いつも面白いこと、楽しいことを思いつくリュータが戻ってきたのが嬉しくて、つい笑ってしまったんだ。馬鹿にしたわけじゃないからね」
”ロマンティック” などと言われて、隆太は思わず「いやぁ ……」と照れ笑いしてしまった。
笑っていないのは、話の流れについてゆけず口を尖らせている、フオンだけだ。
「ところで、リュータは何故『感謝は、魂を解放することでもある』って気付いたの?」
「え? ああ……」
カイは「後でちゃんと説明するからね」とフオンを宥めている。
「サラのことを考えてて。あんな風に、自分を犠牲にして人を守ったり、自分が大変な時に人のことを思いやることが出来るなんて、すごいなって。俺だったら、同じことが出来るだろうか、って。
そう考えてたら、自然と『ありがとう』って思えたんです。そしたら、なんか…」
「えっ?」
3人が不思議そうな顔をするので、隆太は戸惑って聞き返した。
「……なんすか?」
「リュータ、自分も同じことしたじゃない」
フオンが隆太を見上げて言う。
「火事に飛び込んでサラ達を助けたよ?」
「え、ああ……たしかに。でもそれは、おれの場合は…別にその……」
ただ夢中だっただけで。しかも、フオン達の力も借りたし……それに……
俺がしたことは、サラのしたこととは違う。
そう言いたかったのだが、上手く言えなかった。
「あっはっはっは!! リュータ! 今日は朝から何回笑わせるんだい? 君は、教えについては驚くほど よく理解するのに、自分のことは何もわかってないんだね」
我慢出来ない、というように カイが笑いはじめた。
「今度の修行は『自分を知ること』だね」
「そうね。でも……」
お腹を抱えてヒィヒィいっているカイを見て苦笑し、ホアが自分の腕時計を指差す。
「リュータ、そろそろ準備しないと、遅刻じゃない?」
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