第52話 隆太の記憶とサラの真実
「そういえば、昼間ふたりで……」
「うん。フオンと一緒に、火災現場へ行ってきました」
カイの問いかけに被せるように、少し意気込んで隆太は答えた。
自分も行動し始めたことを、きちんと伝えておかなければ。
隆太の甘えを許してくれる彼らへの、せめてもの恩返し……になるのかどうか、わからないけれども。
ゆるゆると歩きながら、カイが頷く。
「そう。花を買ったと聞いて、そうじゃないかと思ったよ」
「どうだった?」
『大丈夫だった?』と聞かないのは、きっと彼らの優しさなのだ。
隆太は心遣いに感謝しながら、なるべく何気ないふうに聞こえるように意識した。
「再建が進んでいて、驚きました。すっかりキレイになっていて。……なんだか目が覚めたような気がしました」
「そう」
「でも、やっぱり思い出しちゃいますね。まだ……ちょっと、キツいっす」
自分の気持ちを正直に、だが敢えて軽い言葉を選んで話す。
あまり心配をかけたくない。
ホアが突然足を止めた。くるりと振り向いて、隆太の正面に立つ。
「リュータ。本当に、憶えてる?」
「え? ええ……」
「じゃあ、サラがあのとき最後に見たもの、何かわかりますか?」
あの時、サラが最後に見たもの。忘れるはずが無い。
「ええ……消火活動のために集まった沢山の天空人達が空を飛び交って……それを見て、『すごくキレイ』って……」
「 ……そうじゃないの。それは少し、違うのよ」
ホアは少し寂しげに微笑んだ。
「サラが最後に見ていたのはね、リュータだったの。
天空人が飛び交う空を見上げていた、リュータの横顔」
「……うん。とても幸せそうに見ていたね。その時、彼女は素晴らしいエネルギーを放っていたんだよ。とても弱かったけれどね」
その時の様子を思い出したのか、カイも微笑んだ。
「あの瞬間、サラはとても幸せだったんだよ」
黙って聞いていた有希子が、「フッ」と吹き出した。
「いつだったかあの子、『いつかこの空を、天空人達が自由に飛べるようになるといいですね』って言ってたわ。『そしたら隆太さんも嬉しいでしょうね』だってさ。」
おっかしい、と力なく笑い続ける。
「……全く、バカよね。あんな状況でも、いつも他人のことばっかり。じ、自分は瀕死だったっていうのに」
長老と共に、サラと被災した女性を抱えて戻ってきたあの時、有希子はその現場に居なかった。
先に火災から救出した幼児を抱え、救急車で病院へ向かっている途中だったのだ。
少し遅れてサラも同じ病院に運ばれ、一時的に意識を取り戻した。
有希子はずっと付き添い、サラの伝言を聞き、そして息を引き取るのを見届けたのだった。
「最後の最後まで……」
サラの最期を思い出したのだろう。
有希子は口を噤み一度空を仰ぐと、先にたって歩きはじめた。
駅はもうすぐそこだ。
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