第45話 再生への裏道

 外へ出たものの、どこへ行くかは全く決めていなかった。


 適当に歩きはじめたつもりだったが、気付けば隆太は商店街の裏道を歩いていた。

 知っている人に会いたくなくて、無意識のうちにひと気の無い道を選んだのだろう。


 チラリと左右を見回し人がいないのを確認すると、一旦立ち止まり、静かに数回 深呼吸をした。


 そのままぶらぶらと歩き出す。

 考え事をするときのいつもの癖で、両手の親指をポケットに引っ掛けたまま。



(みんなに謝らなきゃな……)


 でも、なんと言って謝ろうか。言葉が見つからない。

 それに第一、彼らは謝罪の言葉なんて求めていないんじゃないだろうか。


 そんなことを考えながら 何度か緩やかな呼吸を繰り返すうち、心臓のイヤな震えは止まり 正常に戻った。気持ちも少し落ち着いたようだ。



 呼吸を意識したことで、瞑想を思い出した。


(そうだ。神社に行ってみようか……)


 いつも瞑想していた、神社の裏の林。

 そこへ行ってみようと、今きた道を戻るべく振り返ると。



 数メートル後ろに居たフオンと目が合った。


 その瞬間、フオンはビクッとして立ちすくんだ。



 隆太が心配でこっそりついてきたのだろう。

 逃げ出そうか近寄ろうか決めかねて、固まってしまっている。



 隆太はそんなフオンを見て、自分がこれから何をするべきか悟った。


 俺が今すべきことは、謝罪じゃない。行動だ。




 思わずフッと笑いながら、隆太はフオンの方へ手を伸ばした。


 フオンは嬉しそうに駆け寄ると、隆太の手を取った。


 2人は仲良く手をつなぎ、再び歩きはじめた。





「ね、リュータ。どこ行くの?」


 2人は手を繋いだまま、しばらくぶらぶらと歩いていた。


 隆太が何も言わないので、フオンは少し退屈してきているように見える。


「ん~、まだ内緒。でも、もう少しだよ」


 裏通りを歩き目的の店の裏手に着くと、商店街へ出る短い路地を曲がった。

 途端に街が活気づく。買い物中の主婦や店の主達が、賑やかに声を交わしている。


「はい、着いた」


 フオンがキョトンとした顔で隆太を見上げ、鮮やかなピンク色の看板を指差す。

 華やかなピンク色に地に白い文字で「宇佐美生花店」と描かれているが、フオンにはまだ読めない。



「おはなやさん?」


「そ。サラに似合うお花を、一緒に選んでくれる?」


「サラのお花……? うん、わかった」


 普段荷物を持ち歩くのを嫌う隆太なので、習慣として 財布と携帯はいつでもポケットのに入っている。



 2人が店に入ると、顔なじみの花屋の奥さんが笑顔で声を掛けてきた。


「あら、隆ちゃん。久しぶりじゃないの。まあ、ちょっと痩せたんじゃないの?」


 以前から隆太は、グエンのレストランで飾る花を「ついでだから」と仕事帰りに取りに寄ったりしていた。


 だがあの火事以来、一度も顔を出していなかったのだ。



 ふたりは数分かけて花を選び、小さなブーケを作ってもらった。


 花の名前は聞いた端から忘れてしまったが、パステルカラーと白でまとめた可愛らしいブーケだ。

 サラのイメージにぴったりだった。


 会計を済ませると、店の奥さんは「ハイ、これオマケね」と白い花を1輪、フオンの襟に着けてくれた。


 礼を言って店を出た2人を、奥さんは「またおいでね~」と元気に手を振って見送ってくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る