第22話 接触

「で、どうする?」


 サラマンダーへの対応をどうするか……それを話し合うことが出来たのは、翌朝になってからだった。

 隆太はすぐに出勤しなければならなかったし、仕事を終え帰宅したのは 夕方店が混んできた頃だったのだ。


 グエン夫妻のベトナム料理店は、なかなかの繁盛ぶりを見せている。

 野菜をふんだんに使った料理の数々は、どれも美味しくてヘルシーだと評判を呼んだ。

 おまけに、その野菜はどれもほぼ無農薬で作られており、一部はこのビルの屋上で育てられているということも、話題になる一因だろう。


 おかげで、全員で話し合う時間は朝のひと時ぐらいだった。



「お返事、書かないの?」


 フオンが無邪気に問う。


「イヤ、書くよ。どうやって返事をするか、これから考えるんだ」


 サラマンダーからのメッセージは、他の者には見られないようになっていた。

 ブログの管理者だけが見られるような形で、送られてきたのだ。


「ホンモノだと思いますか?」


 隆太は、仕事の合間にネットで少し調べていた。


 発火能力者(パイロキネシスト)というのは、どうやら世界中に存在しているらしい。もちろん、ごくごく僅かだが。


 問題は、このサラマンダーが本物のパイロキネシストなのか、それとも、冷やかしやこちらに接触することが目的なのか、ということだ。


 ブログには、「夢の中で ”サラマンダー” という言葉が響いた」ことは書いていない。

 だとすると、やはり本物のような気がする。

 ブログ管理者にしか見られないように送ってきたということも、本物なのかもしれないと思わせた。


 だが、やはり冷やかしだという可能性も捨てきれない。


「サラマンダー」とは火トカゲのことであり、童話などでは火の龍をそう呼んだりする。

 だから、自らをパイロキネシストと語る者が ” 偶然 ”「サラマンダー」と名乗ったとしても、不思議ではないのだ。




「んんん……難しいですね。このメッセージだけでは、そこまでわからない」

 カイの問いに、隆太は率直に答えた。


 そう。いくら考えても、進まない。



「この人、自分の力が怖いんでしょう? かわいそう」


 フオンが真っすぐに隆太を見つめる。


 隆太の心に僅かに残るためらいを、振り払う力を貰った気がした。


 ここはとりあえず、相手の話を受け入れてみよう。

 そして、こちらの情報は出さないように返信し様子を窺おう、ということになった。




 ==============

 返信: サラマンダーさんへ

 ==============


 メッセージありがとうございました。

 ブログ読んで下さって、嬉しいです。


 今まで誰にも話さなかった特殊能力を打ち明けるのは、さぞ勇気が要ることだったでしょうね。

 僕に話して下さったこと、嬉しく思います。


 発火能力、確かにちょっと怖いような気もしますね。

 でも、特殊能力というのは全て、神様からの贈り物なんじゃないでしょうか。

 いや、特殊能力だけじゃありません。

 人間も、全ての生き物も、無機物だって、それが存在していること自体が贈り物なのだと僕は思っています。


 サラマンダーさんも、ご自身の能力を受け入れてあげてはいかがでしょうか。

 瞑想は、そこから始まります。

 ありのままの自分を受け入れ認めなければ、他者とエネルギーを分け合うことなど ほんとうには出来ないように思います。



 ご自身の力に怯えずに暮らせる日が、早く訪れますように。

 サラマンダーさんの心が、平安と幸福に満たされますように、お祈り致します。


 キハラ リュータより。


 ーーーーーーーーーーーーーーー




 サレンダーの力には言及せず、あくまでもサラマンダーの悩みについてだけ反応した返信。


 でも、書いた内容は本心だった。


 もし冷やかしだったとしても別にかまわない、と隆太は思った。


 こんなイタズラをする人の心は、きっとどこか歪みささくれ立っているのだろう。

 ならば、その心が癒えるように、やはり祈ることにしよう。



 因に、「キハラ リュータ」というのは、隆太のブログ上でのニックネームだ。


 どんな反応が帰ってくるのだろう。

 それとも、あの返信に満足してそれっきりだろうか。



 メッセージを送ってブログ画面を閉じ、今度はいつものメールチェックをする。


 有希子からメールが届いていた。


「サラマンダーからメッセが来たんですって? どうするの? それより、最近ブログに私の出番が無いわよ?! 絶世の美女って書いてくれなかったんだから、出番増やしてよ~ぅ!」



 隆太は苦笑した。


(この人、段々キャラが崩壊してくるな……あ、本性が出てきちゃってるってことか)


 さっきサラマンダーに送ったメッセージをコピーして、メールに貼った。


「絶世の美女なんて、リアリティが無くなるので却下です。出番については……気が向いたら考えときます」

 と書き添え、返信しておいた。


 隆太はニヤニヤしながら出勤の準備をした。


 水沢さんの出番を増やすとしたら……確実に、お笑い担当だな。

 ブログを読んだときの反応が目に浮かぶ……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る