第21話 繋がる

 

 開店&引っ越しパーティーから、数日後。



 その朝の瞑想で、隆太は初めて宇宙と繋がった。


 太古から続くすべての物質とすべての時間が結びついて、現在があることを体感した。


 意識は一瞬にして地球を越えて宇宙まで飛び、また同時に、時間を一瞬で遡り宇宙創造を追体験した(ような気がした)。


 まるで、世界と自分の間にあった薄く透明な膜が消え失せ、視界が明るく開けたかのようだった。


 目に入るもの全てが、キラキラと美しく輝いている。

 だがそれは、眼をくらます眩しい光ではなく、優しく包み込むようなあたたかい光だ。


 樹も土も、虫も鳥も、みな幸せそうに見えた。

 イヤ、彼らはきっと幸せなのだ。自身がそのことに気付いているかどうかはともかく。



 身体が軽くなり、はばたかなくてもどこまでも飛んで行けそうな気がする。


 肌に触れる空気さえも濃厚に密着し、宇宙との一体感を感じる。


 身体の奥から力が漲り、精神はどこまでも澄み渡っている。



 素晴らしい感覚だった。


 隆太は、呆然としながら興奮する、といった複雑な精神状態になっていた。


 背中の翼の付け根がムズムズする。今すぐはばたきたがっているようだ。


 グエンファミリーが笑顔で拍手してくれている。


 彼らもまた、一段と幸福に輝いて見えた……




 その感覚は、数十秒で終わってしまった。



 だが、隆太は知った。実際に目にして、感じたのだ。


 世界は、本当に、本当に、美しいものだということを。




 フワフワした気分のまま、隆太は部屋に戻った。


 朝食に誘われたが、胸が一杯で食べられそうになかったので、礼を言って断った。


 彼らは気を悪くするでもなく、微笑んで隆太を見送った。

 彼らにも、この感覚に憶えがあるのだろう。



 だが、いつまでもフワフワしてはいられない。

 あの感覚の余韻に浸っていたかったが、残念ながら今日は仕事だ。


 隆太は先月から、深夜勤務を止めて早朝勤務に変わっていた。

 瞑想にも都合がいいし、体調が良くなった気がする。



 グラスに冷蔵庫から出した水を注ぎ(サレンダーの美味しい水)、瞑想中に切っていた携帯電話の電源を入れた。


 日課になっている、出勤前のブログチェック。

 ブログを書くのにはPCを使うが、チェックだけなら携帯電話で充分だ。


 例のブログは、隆太がアップした記事を有希子がベトナム語に訳してアップ、さらにそれをカイが英語に訳してアップ、という壮大なことになっていた。


 同じ内容のブログが、3つの言語で存在しているのだ。

 おかげで、アクセスも徐々に伸びてきている。



 携帯電話が起動するのを待つ間、水を飲みながら簡単な朝食を準備する。


 隆太は最近、食事に時間をかけるようになった。


 よく咀嚼し、食べ物の味をしっかり味わい、栄養を意識しながら食べると、栄養の吸収が良くなる。カイにそう教わったからだが、それ以上に、食べ物に対する感謝の気持ちが生まれたからだった。


 連綿と繋がってきた命を断ち切っていただいているのだ、という自覚。



(さすがに、何も食べずに出勤ってわけにもいかないよな……バナナとシリアルだけでも食べるか)



 ようやく携帯電話が起動した。


 「メッセージが届いています」


 シリアルをボウルに移しながらブログの管理ページを開いた隆太の手が、止まった。

 先ほどまでの高揚感がギュッと縮まり、心臓に突き刺さったようだ。


 隆太は部屋を飛び出し、階段を駆け上がった。



 血相を変えてドアの隙間に身体をねじ込んできた隆太にホアが驚くのも構わず、隆太は叫ぶようにして言った。


「これ! 見て下さい!」


 携帯の画面をかざす。


 隆太の声を聞いてカイとフオンも出てきた。


 狭い玄関で、4人が折り重なるように小さな画面を覗き込む。



「サラマンダーと名乗る人から、メッセージが来たんです」


 画面を見せたところで 彼らが日本語をあまり読めないことを今更ながら思い出し、隆太は読み上げた。




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 タイトル:はじめまして。サラマンダーと申します。

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 ブログを拝見しました。


 とても興味深い小説ですが、もしかして、これは本当のことなのでしょうか。


 何故そう思うかというと、信じてもらえないかもしれませんが、私にも特殊能力があるからです。

 名前からもおわかりいただけるかと思いますが、発火能力(パイロキネシス)です。


 私は今まで、このことを人に言ったことがありません。

 相手の反応が怖かったし、自分自身もこの力を恐れているからです。


 でも、このブログを見て、希望が湧きました。

 サレンダーの真似をして、瞑想をやりはじめました。


 私も、心の平安が欲しい。自分に怯えずに生きていきたい。



 そして、もしかしたら。

 もしかしたら、私にも、守人がいるのでしょうか。



 突然こんなメッセージをお送りしてしまい、申し訳ありませんでした。

 もし、この小説が本当にフィクションなら、どうかこのメッセージのことは忘れて下さい。


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「……よりによって、初めて宇宙と繋がった日にこんなことになるなんて……」


 隆太は混乱していた。

 自分で始めた事とはいえ、今はまだ、感情も理性も 現実に追いつけない。



「偶然ではありませんよ」


 ホアが当たり前のように言った。


「リュータは、こうなることを願っていたでしょう? フオンも、怖がっている人を助けたいと言った。カイも、ユキコも、私も賛成した」


「そう。みんな、同じ気持ちだった。同じ目的を持っていた。

 同じ気持ちを強く持った人が集まると、それは実現しやすくなります。

 ブログのことだけじゃなく、修行も同じ気持ちです。

 

 だから、リュータのレベルがひとつ進んだとき、これが起こった」



「みんな、つながってるの」


 隆太は順繰りに、3人の顔を惚けたように見つめていた。



 つながってる……そうだ……




「宇宙……」


 思わず 言葉がこぼれ出た。



「そういうこと」


 フオンがニッコリ笑った。



隆太のブログ「本当の世界」

http://tsubasanomoribito.blog111.fc2.com/blog-entry-13.html

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