第20話 翼の守人、始動

 

 翌朝の瞑想は中止となった。前日夜更かししすぎてしまったためだ。


「おはよう、リュータ」


 朝食に招かれていた隆太が部屋に入って行くと、フオンがピョンピョン飛び跳ねるようにやって来た。


「見て。これ、着けてるよ」


 昨日あげたペンダントを、嬉しそうに掲げてみせる。


「こっちに来て」と、隆太の手を掴み、リビングへ引っ張っていく。


「ホラ。こうすると、もっとキレイ」


 フオンは、ペンダントを頭上にかざし陽に透かして眺めている。


 そこへ、朝食を載せたトレーを持った有希子が入ってきた。昨夜はここに泊まったのだ。


「おはよう。大原くん。フオンったら、さっき私にも見せてくれたのよ。すっかりお気に入りね」


 そう言いながらトレーをテーブルに置くと、自分のバッグから携帯電話を取り出し、なにやらゴソゴソしている。


 やがて手の中に何か隠したままこちらへやって来た。


 じゃ~ん! とフオンの前で開いた手のひらには、半透明なピンク色の小さな石のチャームがあった。

 携帯電話のストラップから外してきたのだろう。


「これ、モルガナイトっていうの。そのペンダント、スッキリしてて素敵だけど、やっぱりピンクが入ってたほうがカワイくない? 女の子だもん」


「着けてもいい?」


 フオンが隆太を見上げて嬉しそうに聞く。


「もちろん。良かったね」隆太は笑顔で頷いた。


「美人になるお守りよ~」


 女子ふたり、キャッキャとふざけながらチャームを紐に通している。



 あんなに小さくても、しっかり女の子なんだなぁ……


 隆太が感心していると、カイとホアも、それぞれ料理の皿を手に入ってきた。


「朝からずいぶん賑やかだね。リュータ、おはよう」

「おはようございます」



 和気あいあいとした朝食の後、いよいよブログの件についての会議が始まった。


 難しい話なので、と隆太に断りを入れ、カイはベトナム語でフオンに説明した。


 しばらくベトナム語での話し合いが持たれた後、フオンは日本語に戻って言った。


「リュータのお話、いいと思う。出来たら、フオンも読みたい」


 この家族は、フオンを子供扱いしない。一人前の家族の一員として、その意見を尊重する。

 難しいことも、簡単な言葉に置き換えてしっかり説明し、自分で判断させるのだ。


「もし、面白がってフオンを見に来る人がいたら?」


 カイの問いに、少し考えて答える。


「しらんぷりする」


「もし、別の力を持った人がフオンに意地悪したら?」

「意地悪する人ともケンカしちゃ駄目って、ママが言ったよ。どうして意地悪するの? って聞くの。意地悪しないでね、って言うの」


 その答えに、ホアが目を細める。


「それに、力のことを怖いと思ってる人には、怖くないよって教えてあげればいい」




 こうして、隆太のブログ開設が決定した。


 協議の末に決まったタイトルは、「翼の守人」。

 http://tsubasanomoribito.blog111.fc2.com/blog-entry-1.html


 記事をアップする前に、有希子にベトナム語に翻訳してもらい、グエン夫妻に目を通してもらうことにした。


 リュータの好きに書いてくれていい、と言ってくれたのだが、隆太自身に少し不安があったのだ。慎重になるに越したことは無い。



「それにしても、リュータは色んなことを思いつきますねぇ」


 ホアが、感心半分、呆れ半分の表情で笑った。

 隆太も、ソファに座りフオンと遊んでいる有希子へと目配せし、ニヤリと笑う。


「水沢さんにはかないませんよ。なんたって、世界征服だもの」



 隆太が自分の部屋に戻る時、有希子は再びブツブツと悩んでいた。


「迷うわぁ。緑川さゆり……真行寺あかね、っていうのもいいわねぇ……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る