第18話 隆太の計画
「ひゃ~。それにしても、盛り上がったわね~」
12時を過ぎ、有希子が皿を片付けながら笑う。
商店街の人達や隆太のバイト仲間が入れ替わり立ち替わり、パーティーは大盛況だった。
「自家栽培の無農薬野菜を使ったベトナム料理」を出すレストランということで、開店前から周辺の話題になっていたのだ。
パーティーの最後には、グエン夫妻手作りの大きなケーキが登場し、隆太の引っ越しを祝って客に振る舞われ、お開きとなったのだった。
隆太も、ゴミを拾いテーブルを拭きながら笑う。
カイとホアは厨房で洗い物。フオンはとっくに夢の中だ。
「料理も好評だったみたいですしね。
それに、近所の人達とも もうずいぶん仲良くなってて、朝の瞑想を教わってる人もいるぐらいですから」
グエン一家の人柄のせいなのだろう、あっという間に近所に溶け込んでしまっている。彼らの周りには、自然と人が集まるのだ。
だが、自分の功績も少しぐらいはあるんじゃないか、と隆太は自負していた。
なにしろ、翼を得るために街中の人と顔見知りになり、近所付き合いを欠かさぬようにし、身も心も天空橋の住人たらんと心がけてきたのだから。
「そう。なんか今、ちょっとしたブームなのよね」
「ブーム? 瞑想が?」
「ううん。瞑想そのものは、ブームのほんの一部。なんていうか……彼らの思想、ものの捉え方、生きる姿勢……そういうのが、いま増えてきてるの」
そう言われてみれば、実は隆太にも思い当たるところがあった。
サレンダーに出逢ってからというもの、インターネットであちこち見て廻ったのだ。
確かに、そういった思想を教えるサイトやブログ、書籍等がたくさんあって、少なからず驚いたのだ。
隆太は考えた。彼らに話す前に、水沢さんに相談してみようか……
* * *
後片付けを終えた店の中、4人はテーブルにつきお茶を飲んでいた。
隆太の思いつきについて、話し合っているのだ。
時たま、有希子がベトナム語で言葉を補ってくれるのが、非常にありがたい。
昼間、パワーストーンショップでハンドルネームで呼び合う2人連れを見て、隆太は思いついたのだ。
自分の体験、サレンダーとの出逢いから修行の内容までを、インターネットで発信してみてはどうかと。
だが、それには危険が伴う。
内容によりフオンの素性が知れれば、興味本位で多くの人が訪ねてくるかもしれない。中には、害意を持つものもいるかもしれないのだ。
だから、あくまでも『ブログ小説』として、発表する。
登場人物は名前を変え、全てフィクションという形を取るのだ。
「でも、どうして? 何のために、発表するのですか?」
カイの疑問は、当然だった。だが、隆太は期待していた。
サレンダーの瞑想は、素晴らしいものだ。
争いというのは、実はすべて『エネルギーの奪い合い』であり、
無意識のうちに互いのエネルギーを奪い優位に立とうとする行為である。
だが私達は、愛によって宇宙と繋がることができる。
宇宙に満ちている 無限のエネルギーを、自分に取り込むことが出来る。
それにより、人の間の諍い、すなわち『両者の間のエネルギーの奪い合い』をする必要は無くなる、ということ。
すると、無用なストレスは激減し、心身ともに強く健やかに保つことが出来る。
それをみんなが知れば、世の中はきっと素晴らしいことになる。
もちろんそんな内容の文章は、今やネットの中にゴロゴロしている。
インターネットの普及によって、情報は飛躍的に広がっている。
でも、そういったことに興味がある人しか、読まないのだ。
興味がない人は、ブラウザを閉じてしまうだけだ。
その点、サレンダーは世界に唯ひとり。
「体験談風ブログ小説」という形で面白く発表出来れば、多くの人が読んで、中には新たに瞑想に共感する人もいるのではないか。
「それに……」
頭の中には、夢に出てきた「サラマンダー」という言葉がまだ引っかかっていた。
隆太はまだ迷っていたが、彼らの反応を伺いながら言った。
「似たような力を持った人が、接触してくる可能性もあるんじゃないかな」
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