第16話 直感を信じる

 

 隆太は自宅から少し先、勤務先のある駅の駅ビルに来ていた。


 お目当ての店を探す。

 外から店内を眺めた事はあったが、まだ入ったことは無かった。


 しばらくウロウロして、見つけた。パワーストーンショップだ。



 初めての瞑想体験から3ヶ月と少し。既に年を越していた。


 バイト帰りにタイミングが合う日には、なるべく瞑想に顔を出すようにしていた。

(雨の日や体調の悪い日は、外での瞑想は中止だった。つくづく、自由な修行だ)


 先日、グエンファミリーのところへの引っ越しが済んで、少し落ち着いたところだ。


 レストランの料理の匂いがなるべく部屋に侵入しないようにと配慮してくれて、建物の一番奥、なおかつ最も日当りのいい部屋だった。



 今日は開店記念と隆太の引っ越しを兼ねたパーティーをしてくれるというので、隆太も何かプレゼントをしようと考えているのだ。


 カイには日本酒と酒器を。ホアには綺麗な一輪挿しを用意した。


 そしてフオンには、お守りを……いや、それじゃ宗教色が強すぎるな。水の力を操るフオンには、もっとこう、自然なカンジ……

 そう考えて、パワーストーンを買うことに決めた。自然のエネルギー。




 おそるおそる店に入る。

 パワーストーンなんて、雑誌の裏の広告でしか見たことが無かった。


(ひょっとして、すごく高かったりして……)


 壁に並んだガラス棚をぎっしりと埋め尽くす、様々な石。

 小さなガラスの器に種類別に入れられ、石の効能と値段の書いてある札がかけてある。


(こんなに種類があるのか……どれを選べば良いんだ?)


 奥のほうには、石を使った小物が並べられている。

 ストラップ、ブレスレット。ペンダントやヘアアクセサリーまである。



 色々眺めていると、他の客の会話が聞こえてきた。

 互いを「さるさん」「きりんさん」などと呼び合い、楽しげにキャッキャと騒いでいる。隆太はチラッとそちらを盗み見た。


 30代半ばらしき女性2人連れだった。

(いい大人が サルだのキリンだの、なんのこっちゃ)と一瞬思ったが、すぐにそれらはあだ名やハンドルネームの類なのだろうと思い至る。


 ふたりは店員に、その場でストラップを作ってもらうらしい。


(そんなことも出来るのか……)


 しばらく横目で様子を見てみる。フムフム……石を選んで、パーツを選んで、デザインを伝えて……なるほどね。


 隆太はパーツのコーナーへ移動しながら、聞くともなしにふたりの会話を聞いていた。


 女性客の片方は、石に詳しいようだ。良い石の選び方などをレクチャーしている。


 まず、直感で選ぶのがいいらしい。

 厄除けやら恋愛運アップやらと目的に合わせて石を選ぶのだが、同じ種類の中でどの石を選び取るかは、己の直感なのだ、と。


(要するに、なんとなく目に留まったものを選べば良いってことか……?)

 聞き耳を立て、隆太はなおも観察を続ける。


 それを聞いて、もう片方の女性は「直感かぁ。じゃあ、これ~」と即座に2つ3つと選び出した。

 まるで迷いが無い。


 隆太は内心、「はやっ! 直感にも程があるだろ、それ……」と突っ込んでしまった。


 だが、石選びのハードルは下がった気がした。

 なにしろ石の種類が多すぎて、選びかねていたのだ。



 よし。直感、直感……


 まず、ブレスレットは……子供が着けるには目立ち過ぎるかな。それに石をたくさん使うから、高くつきそうだ……

 うん。ペンダントにしよう。紐は……革製がいいな。よし、これだ。


 次は、石だな……


 石のコーナーにまわった隆太は店員に助けを求め、選ぶのを手伝ってもらった。


 メインとなるのは、平たいしずく型のアクアオーラ。

 角度によって青や水色、紫にも見える不思議な石だ。

 それに、ひとまわり小さく丸い形の紫のアメジストと紺色に近いスギライトを縦に連ね、それぞれの間にさらに小さな水晶のビーズを挟んで、チャームに仕立ててもらう。

 それを、着色していない細い革紐に通して出来上がりだ。


 紫系の綺麗なグラデーション。邪気を払い、潜在能力を引き出すお守りだ。

 小さな石なので、怯えるほど高くつかなかったのもラッキーだった。


 予算に余裕があったので、隆太は自分の分も作ることにした。


 自分のものなので、直感で選ぶのも気が楽だ。

 先ほどの2人連れの女性達にも負けないほどの即決だった。


 細長いブラッドストーンの両脇を、小さなオニキスで挟み、間に暗い銀色の金属ビーズをあしらって、短めの黒い革ひもに直接通す。シンプルこのうえない。

 勇気と強い精神力を授け、邪気を払うお守り。



 数ある石の中から直感でひとつを選び出す。

 隆太にとって初めての経験だったが、それは予想外に楽しいことだった。

 余計な迷いがどんどん消えていき、頭と心がスッキリした気がする。



 フオンへのプレゼントを包装してもらい帰途につく頃には、隆太の胸にはある計画が浮かびつつあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る