第4話 困惑のモリビト

 隆太は面食らったまま一旦断ってから(「失礼、」)玄関のドアを一旦閉じ、チェーンを外すと 怪訝な表情のまま、またドアを開けた。


(通訳? グエン? なんでまた、外国人が、俺に?)


 外国に知り合いなど居ない。自慢じゃないが、パスポートすら持っていないのだ。



「彼らは、ベトナムから来ました。あなたに会う為に。」




 * * *




 15分後、一同は近所のファミレスに居た。

 玄関先に彼らを待たせたまま、大急ぎで着替えて出てきたのだ。


 わざわざベトナムから何の話か知らないが、初対面の人間を部屋に上げるわけにはいかない。(目覚まし時計のタイマーも、ちゃんと解除してきた。)



 ボックス席のテーブルの向かい、壁側に母親(華奢で、柔和な印象だ)、

 小学校まえぐらいの娘(クリクリした目でこちらを見つめている)、

 通路側に父親(小柄で、温厚そうな男だ)。


 そして隆太の隣には、例の水沢とかいう美人。


 なんだかよくわからない展開に戸惑い、気付けば隆太は壁側に座っていた。


(……しまった。これじゃ、容易には出て行けないじゃないか……)



 席にひとまず落ち着くや否や、ウエイトレスが水とメニューを運んできた。

 珍しいのだろう。店内をキョロキョロと見回していた子供は、今度は子供らしい遠慮のなさで、ウエイトレスを凝視している。


 メニューを渡されると、今度はメニューに釘付けだ。

 母と娘のちょっとした攻防の末、娘は大きなチョコレートパフェは逃したものの、100%果汁のオレンジジュースの他に、小さなアイスクリームとプリンのデザートを勝ち獲ったようだ。


 ウエイトレスが立ち去ると、父親が口を開いた。


「ハジメマシテ、大原さん。私はグエン・バン・カイです。こちらは妻のホア。娘のフオンです」


 カタコトの日本語で、それぞれを紹介する。

 娘は真っすぐにこちらを見つめ、ぺこりとお辞儀をした。

 母親は少し緊張気味の笑顔を浮かべ、会釈する。



「どうも。大原です」

 言わずもがなだとわかってはいたが、相手が自己紹介しているのに何も言わないというわけにはいくまい。それぐらいの礼儀はわきまえているのだ。



「ワタシタチは、この娘の身を守る為に、ここへ来ました。モリビトの側に。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る