第2話 不思議な夢


 その朝は、いつもと同じように始まった。


 コールセンターでの深夜勤務を終え、自転車で夜明けの街をゆっくりと走る。

 自転車の前カゴには、会社近くのコンビニで買ったサンドイッチとジュース。


(今日もいい天気だ。暑くなりそうだな……)


 隆太は、夏が嫌いだ。暑いのが苦手なのだ。

 今はもう残暑とはいえ、熱気にまとわりつかれる様で 身体を動かすのが億劫になる。


 だが、この時間帯だけは好きだった。

 空は明るく晴れているのにまだ涼しいし、何より空気が新鮮だ。太陽の光も真新しい気がする。


 だから、夜の涼しい間に働いて(オフィス内は日中もエアコンが効いているので、あまり関係無いのだが)、早朝のこの時間を堪能しながら帰路に着き、日が高くなり暑くなる前に眠ってしまう。


 冬は冬で、もっとも寒い時間帯をオフィスで過ごせるのだから、光熱費が少なくて済むというものだ。

 通勤は寒いが、隆太は寒さには強かった。冷たい空気に触れると、身体の輪郭が際立ち覚醒するような気がする。


 こうした昼夜逆転の生活スタイルは、自分の体質に合っているようだ。

 そんなことを漠然と思いながら、隆太はペダルを漕いだ。



 一人暮らしのアパートに帰り着くと、すぐに洗濯機へ直行した。


 汗で湿った服を脱ぎ、溜まった洗濯物と一緒に洗濯機へ放り込む。

 洗濯機が働いてくれている間に、手早くシャワーを浴びる。


 サッパリとしたところで、部屋着に着替え、途中で買ってきたサンドイッチの包みを開いた。

 ジュースの蓋を開けようとして、思い直す。今日は久々にビールを飲もう。

 ペットボトルを冷蔵庫にしまい、かわりにビールを取り出した。


 サンドウィッチは、一瞬で胃袋へと納まった。


 ビールを飲みながら、横目で郵便物をチェックする。いつものとおり、チラシやDMばかりだ……



 洗濯終了のアラーム音で目が覚めた。どうやら、パソコンでメールチェックをしながら、少しうとうとしてしまったようだ。


(変な夢を見たな……)


 たしか、テーブルの向かいに見知らぬ少女が座っていて、グラスに入った水を見つめている……

 窓の外をネコの顔をした龍のような生き物が飛んでいて……そして………



 そこまで想い返して、隆太はニヤッとしながら緩く首を振った。


(ホント、変な夢だ……)


 ぬるくなりかけたビールの残りを飲み干し、隆太は洗濯物を干すべく洗面所に向かった。


(早く干してしまって、さっさと寝るか)




 隆太には知る由もなかった。

 この数時間後、自分の人生が激変することになろうとは。


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