第90話 秘密会議


「世界滅亡の年?」


 職場での昼休み、チームの女の子達が話していたのだ。

 なんでも2012年は、世界が滅びる年なのだという。


「ああ、ノストラダムスとかなんとか文明の予言とか、そういうやつか」

「マヤの予言ですよ! 来年、人類は終末の日を迎えるらしいです」


「大原さん、短い間でしたが今までお世話になりました……」などとふざけていたので、彼女がそれを信じていないことは明白だったが、まあ、要は女性というのはそういった話題が好きなのだろう。


 そのことはそれっきり忘れてしまったのだが、家に帰り遊びに来ていた有希子の顔を見たら思い出した。


「水沢さん、マヤの予言って知ってますか?」

「何よ、突然。知ってるわよ、2012年に人類が滅びるって話でしょ?」


「わたしも知ってるよ。映画になったんだよね」


 ……フオンまでも知っているのか。


「王さまのぶらんちで見たもん」



「それはね、人類の意識が大きく変わり進化することを予言している、という説もあるみたいだよ」


 カイが両手に皿を持って現われた。


「へええ」


「進化って、どういう風に?」


「それがね……」

 気を持たせるように、間を空ける。



「私達が、日頃からやってることよ」

 カイの後ろから現れたホアが、せっかくのセリフを横取りした。


「ああ! せっかくカッコよく発表しようと思ったのに……」


「いいから、はやく並べちゃってね」


 ホアは手にした食器をテーブルに置くと、皿を持ったまま肩を落とすカイの背中をポンと叩き、キッチンへ戻って行く。



「なに、なに?」

 有希子が興味を示す。隆太も気になりはじめた。


 気を取り直したカイが、テーブルに皿を並べる。


「その説というのはね、私達の修行の内容。それを、世界中のみんなが知ることになる、ってことです」

「おおおおお! それは確かに、大改革ですね!!」


 隆太は思わず声をあげた。


 この修行を始めた当初、自然の発するエネルギーとつながる素晴らしさを皆が知ったら、どんなに素晴らしい世界になるだろう、と隆太は想像した。

 修行の内容が広まることを願い、ブログを書いたりしていた。


 それが、現実のものになるというのだ。


「でも、それって今に始まった話じゃないじゃない? 修行の内容は昔からあったし、今じゃ本やネットでもさんざん取り上げられてる。なのに、なんで2012年なわけ?」


「さあ……それはわからないけど。興味を持つ人が一気に増える出来事が、何か起きるのかな?」



 カイのその言葉を聞いた時、隆太には閃くものがあった。



「えっと、じゃあ……」


 その閃きはアイディアの種のようなもので、自分が何を閃いたのかさえまだわからない。


「あれ……なんか今、思いつきかけたんだけど……」

 もどかしく言葉を探しながら、種の発芽を待つ。



「あ〜、ああ………えっと、その出来事、俺達で起こしちゃえる……かも?」


 そう言った途端、隆太の頭の中で種が芽吹き、一瞬でその計画は大木へと成長し計画の全貌が表れた。



「なに、なに? 何よそれ、楽しそうじゃないのよ~♪」


 有希子は早くも興味津々で、着ていた薄手の上着を脱ぎ出す始末だ。

 カイもフオンも期待に満ちた目を向ける。


 隆太は自分の思いつきを話し始めた。


 すぐにホアも加わり、料理の冷めるのも構わず、突然の秘密会議が始まった………



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