第89話 充実の日々
結局、隆太の提案は大いなる賛同を以て受け入れられた。
特に、エリックにとっては。
彼は進んで双子に話し掛け、仲良くなろうとしているらしい。
もちんエリックだけで双子の世話が出来るわけもなく、複数の大人達が協力している。
子供達は、表に出さないだけで、豊かな感情を持っていることもわかった。
修行にも興味を示し、積極的に関わろうとする大人達に、徐々に心を開こうとしているそうだ。
とりわけ、エリックの風の力と、日本に滞在した時の話は、子供達のお気に入りのようだった。時にはむこうから話をせがみにくるのだと、エリックは自慢げにメールを寄越したものだ。
双子以外の子供達からもエリックは慕われており、「風を操る『日本通』のお兄さん」という位置づけになっているらしい。
実際には数日間日本に滞在しただけなのだが、隆太達が送った大量のおもちゃやお菓子のインパクトは絶大だったようだ。
ただ、日本のおもちゃに関しては エリック自身に知識が全く無かったため、逆に子供達から教わっているそうだ。
手話といい玩具の知識の習得といい、エリックは周囲に溶け込もうと努力をしている。もちろん修行にも精を出しており、大人達とも良い関係を築いているようだ。
マスターから時おり送られてくるメールからは、エリックの変化が見て取れた。
添付された写真には、ほんの数ヶ月前の彼とは別人のように柔らかな表情のエリックが写っていた。
隆太も負けてはいない。
翼はさらに成長し飛行距離も延び、また、日頃から自身のコントロールドラマに気をつけるようになったせいか、職場で周囲から話し掛けられることが増えた。
以前は「プライベートなことでは話し掛けにくかった」のだそうだ。
だが最近では、さほど親しくない相手から人生相談のようなものまで持ちかけられるようになり、その度に修行の内容やコントロールドラマのことを話した。
隆太自身が変わるにつれ、徐々に隆太をとりまく環境も変化して行った。
夏が終わる頃には昇級し、リーダー職の中のトップになっていた。
もちろん、修行も順調だ。
隆太は既に、空を見上げるだけでエネルギーを取り込める。
宇宙と繋がるまでにかかる時間もずっと短くなり、簡単に繋がれるようになった。
もちろん、簡単だから、いつものことだからといって、その素晴らしさは少しも減ずることは無い。
グエン一家や有希子も同様だ。
天空人の間でも、瞑想をする人がさらに増えている。
自然のエネルギーについての知識と経験が、少しずつ少しずつ、広まっていた。
自分の周りで、あるいは遠く離れた場所で。
一緒に修行をしている仲間がいると思うだけで、なんだか楽しくなる。
隆太がある噂を耳にしたのは、そんな充実したある日のことだった。
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